研究課題/領域番号 |
19K10079
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大橋 晶子 日本大学, 歯学部, 助教 (00571019)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 一酸化窒素合成酵素 / 血管障害 / テトラヒドロビオプテリン / 輸送体 |
研究実績の概要 |
糖尿病性の血管障害は一酸化窒素合成酵素(eNOS)の機能不全を主因とする。テトラヒドロビオプテリン(BH4)は内因性の補因子であり,eNOSの二量体形成とアルギニンの酸化における電子供与体として機能する。BH4の酸化型であるジヒドロビオプテリン(BH2)はBH4と同程度の親和性でeNOSと結合するが補因子としての機能はないため,eNOS-BH2は一酸化窒素ではなく活性酸素・窒素種(ROS, RNS)を産生する。ROSやRNSはBH4を触媒作用のないBH2へ酸化するため,BH4欠乏のカスケードに陥る。すなわち,BH2のBH4に対する相対量(BH4:BH2比)の増大がeNOS機能不全の原因・増悪因子である。 eNOS機能不全に対してBH4の投与が試みられているが,BH4:BH2比が改善しないために実用化できていない。これは,投与されたBH4が組織・細胞で酵素的に酸化されるためBH4を投与したにもかかわらずBH2が増加してしまうことが原因と考えられている。 BH4の細胞への 流入の制御により,BH4の過剰な酸化を抑制できると考え,本研究では,細胞内へのBH4の取り込みを担う『輸送体』を同定し,同時にその特異的阻害剤を探索する。 令和元年度には,BH4輸送に,温度・機械・浸透圧・pHなどの物理・化学的な刺激で活性化されるtransient receptor potential (TRP)チャネルが関与することを明らかにした。令和2年度は,TRPチャネルの6つのサブファミリーのうち,BH4輸送に関わるものを同定しようとした。また,浸透圧によって調節されるBH4輸送体そのものの同定についても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では,浸透圧感受性のBH4輸送に関与することが示唆されたTRPチャネルの同定を行う予定であった。TRPチャネルは6つのサブファミリー(TRPCs,TRPVs,TRPMs,TRPA,TRPPs,TRPMLs)が知られており,TRP阻害剤やアゴニストは既にいくつか報告されている。浸透圧感受性のBH4輸送に対して,これら既報のTRP阻害剤やアゴニストの効果を観察することでサブタイプの同定を試みたが,阻害剤の効果に特異性があまりないためにサブファミリーの同定が遅れている。 また,浸透圧によって活性が調節されるBH4輸送体そのものの同定に際して,BH4の類似化合物である核酸の定量が必要となった。核酸のHPLC-UV検出の条件の検討を行う必要が生じたために当初の予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞へのBH4輸送のメカニズムを解明することで,BH4の過剰な酸化,すなわちBH2/BH4比の上昇なしにBH4の標的組織への補充を実現させることを目的とし,前年度に引き続き,BH4輸送の促進にかかわるTRPsと,BH4輸送体の同定をそれぞれ行う。 また,本年度はBH4輸送活性の促進がBH2/BH4比とNOS活性に与える影響を,ヒト由来内皮細胞を用いて検討する。 他方,BH4輸送体の同定については,輸送活性が促進された条件下で再度輸送特性の観察を引き続き行う。 さらに,本研究で観察されたBH4輸送体の浸透圧による活性の促進が培養細胞だけでなく組織においても機能しているかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画通り経費を使用したところ,端数が生じた。令和3年度は特段の計画変更はなく,NOS関連試薬,輸送体の同定必要なプライマー,siRNA,発現ベクターなどの分子生物学的試薬の購入,輸送体関連試薬の購入,薬剤の効果を観察するために必要な実験動物(マウス)の購入,細胞の培養のために必要 な培養容器などの消耗品を購入,免疫染色関連試薬,HPLC/蛍光検出器の 運用維持に関する消耗品の購入に使用する。
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