研究実績の概要 |
糖尿病性の血管障害は内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の機能不全を主因とする。eNOS機能不全では,活性酸素・窒素種(ROS, RNS)が発生し,過酸化脂質などが蓄積し,肝臓や腎臓を含む末梢血管系の不可逆的な障害が進行する。eNOS機能不全の主な原因は,eNOSの内因性の補因子であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)と酸化型のジヒドロビオプテリン(BH2)の比率(BH4/BH2比)の低下である。比率の低下によって,eNOSと結合していたBH4がBH2に置き換わり,その結果,NOではなく活性酸素種が産生される。これに対して,BH4を投与によるBH4/BH2比の改善が試みられている。しかし,BH4投与では,組織・細胞で酵素的なBH4酸化がおこり,BH2の増加が伴うため,BH4/BH2比が改善しない。BH4の細胞への流入の制御により,BH4の過剰な酸化を抑制できると考え,本研究では,細胞内へのBH4の取り込みを担う『輸送体』を同定し,同時にその特異的阻害剤を探索する。 令和元年度には,BH4輸送に,温度・機械・浸透圧・pHなどの物理・化学的な刺激で活性化されるtransient receptor potential(TRP)チャネルが関与することを明らかにした。令和2年度以降は,BH4輸送に関わるTRPチャネルの同定,BH4輸送体の同定,および組織レベルでもこれらのBH4輸送が機能しているかどうかについて検討した。
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