癌と前癌病変の病理組織学的評価は口腔病理診断における最重要課題のひとつだが、ときに観察者間で不一致が生じる。診断の標準化のため、 組織学的所見をスコア化して半定量評価する方法も試みられているが、やはり再現性には問題がある。人工知能(AI)に評価を委ねることができれば、診断の客観性、再現性の要件はクリアできそうである。そこで、舌の腫瘍性病変の病理組織学的評価へのAIの適用を試みた。試料は舌部分切除術材料200症例と、舌生検材料75症例で、HE染色病理組織画像のバーチャルスライドを作成した。手術材料80例を用い、区分けした小領域のパッチ画像を取得してラベル付けしたデータセットを経験年数の異なる病理専門家および非専門家、合計4名が作成した。それぞれアノテーションをもとにInceptionV3をの転移学習によって、AIを訓練した。テスト画像として小画像領域の癌、高異型度上皮性異形成、低異型度上皮性異形成、正常上皮の4クラス分類では人-人の不一致率は約10-20%、人-AIの不一致率は20-30%であった。AIが客観的な評価に有用である可能性が示された。自らのアノテーションで訓練したAIとの一致率がもっとも高かった人が、ばらつきが少ない優れた評価者であるとみなし、275症例すべてのアノテーション作業を進めた。このデータセットを用いて、パッチの取得法、AIモデル、ハイパーパラメータの最適化を進めている。
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