研究実績の概要 |
Epstein-Barr virus (EBV)は乳幼児期に唾液を介して初感染することが一般的で、その後の成人においても95%以上がEBV潜伏感染状態にあることが世界的に認知されている。EBVは鼻咽頭癌や悪性リンパ腫などの悪性腫瘍の発生と関連性があり、近年では口腔癌の発生への関与も示唆されている。唾液中に分泌されるEBVではあるが、唾液腺腫瘍とEBVとの関連性については不明な点が多いことからヒト唾液腺腫瘍のパラフィン包埋材料を用いて、PCR法によりEBV潜伏感染ゲノム(EBNA-2, LMP-1)を増幅し腫瘍組織にEBVが潜伏感染しているか否か検討した。その結果、唾液腺腫瘍環境下においてEBV潜伏感染ゲノム(EBNA-2, LMP-1)がそれぞれ13.8%と52.1%の割合で検出できた。EBNA-2に比較してLMP-1の検出率は、良性および悪性腫瘍のいずれにおいても高かった。ISH法によるEBER発現の検討では、高発現症例(High-grade)は良性腫瘍に比較して、悪性腫瘍で軽度高い傾向が示された。LMP-1タンパク質発現の検討では、高発現例(High-grade)は良性に比較して悪性腫瘍で倍以上検出され高い傾向が示された。EBVのレセプターとされるCD21の発現が形態的に正常な唾液腺上皮組織や唾液腺腫瘍の実質細胞(上皮性)に認められるか否か免疫組織学的に検索を行ったが、全症例でCD21タンパク質発現は確認できなかった。そこで最近EBVのレセプターとして報告されたEphA2の発現について唾液腺組織に認められるか否か免疫組織学的に検討を行った。その結果、形態的に正常な唾液腺上皮組織や唾液腺腫瘍のほとんどに程度の差はあるがEphA2タンパク質発現が確認できた。以上のことから、唾液腺腫瘍の病態形成の1要因としてEBVが関与している可能性が示唆された。
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