研究課題/領域番号 |
19K10099
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
西川 清 愛知学院大学, 歯学部, 講師 (50340146)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細菌真菌間相互作用 / カンジダ / 口腔細菌 / 16Sメタゲノム解析 / 絶対定量的リアルタイムPCR / 相関検定 |
研究実績の概要 |
義歯表面に形成されるデンチャープラークは病原真菌カンジダと多種多様な口腔常在細菌との共凝集体であり、局所的には口内炎、全身的には誤嚥性肺炎等の感染症を引き起こす。プラーク中のカンジダ検出状況は検体ごとの変動が大きく、その増殖や定着に共生的又は拮抗的な影響を及ぼす細菌の存在が予想される。カンジダと直接相互作用する細菌候補を絞り込むため、各プラーク構成細菌とカンジダ間の量的な相関関係を網羅的に検討した。 義歯使用中の健康な65歳から88歳までの被検者18人からデンチャープラーク31検体とデンタルプラーク16検体の合計47検体を採取し、DNAを抽出後、それらに含まれる全細菌とカンジダDNAの定量解析を行った。細菌の16SrDNA部分領域を標的とした次世代シーケンス(NGS)解析を実行した後、全細菌16SrDNAとカンジダ特異的DNAの絶対定量的リアルタイムPCR (AQrPCR)データを標的配列のモル比換算によってリンクさせ、検体毎の細菌総量に対するカンジダ構成比を算出した。これにより200種類以上の口腔細菌とカンジダの構成比率データが47検体分得られた。 次に、カンジダと個々の細菌間の量的な相関関係を統計学的に検定した。その結果、検体中の構成比の変動がカンジダ構成比と同期し正の相関を示した細菌は属レベル以下で6種類、逆に構成比の変動がカンジダの増減と逆転する負相関を示した細菌は21種類、有意に見出された。この中には先行研究にて細胞レベルでの相互作用が示唆された菌種も複数含まれており、「カンジダ共生細菌は構成比が正相関、拮抗細菌は負相関を示す」との作業仮説が部分的に立証されたと解釈している。更に、これまで注目されなかった複数の細菌が、本解析によりカンジダと強い相関を示すものとして絞り込めており、このような細菌属・細菌種と真菌カンジダ間の新たな相互作用機構の存在が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
検体採取は予定通りのスケジュールで目標数圏内に到達し、その後の網羅的なDNA定量解析も当初予定より早く順調に進行した。その結果、目標期限内に、カンジダと量的に相関関係を示す細菌を、属および種のレベルで正・負それぞれ複数菌種絞り込めた。つまり、本研究課題の第一目標である、「カンジダと相互作用を示す可能性のある複数菌種の絞り込み」が、当初設定した期限内に達成できた。 一方で、例えば歯周病原細菌ポルフィロモナス・ジンジバリスのように、口腔細菌研究コミュニティー間では主要菌種とみなされゲノムレベルでの知見が豊富であるにも関わらず、今回の次世代シーケンス解析では属レベル(ex.ポルフィロモナス)までの同定に留まり、種レベル(ex.ジンジバリス)まで決定できない菌種がいくつか認められた。その原因としては、外部委託した次世代シーケンス解析の標的DNAが16SrDNAの部分配列であり、種まで決定するのに十分なデータ量が得られなかったことや、菌種の系統分類決定の基準となる既知16SrDNA配列を収録した公共データベースの特性などが考えられる。いずれにせよ、この部分に関しては、解析費用の面から改善の余地は無く、菌種の網羅性、得られるデータの解像度の高さの観点から、若干の制限がかかる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた量的相関解析の結果を参考に、今後カンジダとの相互作用を分子レベルで検討すべき細菌種を選択する作業に入る。先ず、補正相関係数の絶対値を用いたランキング表を作成し、正相関・負相関それぞれにおいてカンジダとの量的相関が強い上位菌種を絞り込む。さらにその中から、研究対象として新規性が高く、かつプロバイオティクス等への臨床応用のし易さを念頭に置き、ヒトへの病原性が報告されていない安全な菌種を選択する。一方、真菌カンジダは、病原性の面で医学的に最重要かつ知見の豊富なカンジダ・アルビカンス種に対象を絞る。 次にカンジダ・アルビカンスと選択した細菌種の共培養系を確立する。選択した細菌種に応じて、BHIや血液寒天培地などを適宜使用し、酸素濃度などの至適培養条件も検討する。共培養系が確立できたら、共培養系と単独培養系それぞれからmRNAサンプルを採取し、真菌と細菌のRNA構造の違いを利用して分離した後、マイクロアレイもしくは次世代シーケンサーを用いた網羅的な発現比較解析を行い、単独培養と共培養で発現量が大きく変動する因子を同定する。また、総タンパク質試料を調製し、2次元電気泳動法によるタンパク質スポット展開を行い、産生量の変動するスポットを同定して質量分析するプロテオミクス的アプローチも適宜併用する。 現時点での予想としては、クオラムセンシングなどの微生物間コミュニケーション機構や、真菌・細菌特有の環境応答型シグナル伝達機構である二成分制御系などが、カンジダ-細菌間相互作用の有無で変動する因子として同定される可能性があり、これらに関連する解析の準備も進めておく。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月初旬に発注した試薬については、COVID-19パンデミックの影響で、米国メーカーからの輸入に大幅な遅延が生じ、年度内納品が間に合わなかった。ただしこれらは4月上旬までに全て納品済みである。また3月末に購入した事務用品については年度内に納品されたものの、所属機関の会計期限に間に合わず、次年度会計となった。つまり実質的には、次年度に繰り越して使用予定の未使用金額は0円である。
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