義歯や残存歯から採取したプラーク46検体の微生物叢を明らかにするため、メタ16Sゲノム解析とリアルタイムPCR解析とを組み合わせた手法を開発し、各プラーク検体に含まれる細菌と真菌Candida albicansの網羅的な菌構成比データ取得に成功した。これらを基本データとしてC. albicansと量的に負の相関を示す細菌属を相関検定によりスクリーニングしたところ、嫌気性桿菌のLeptotrichia属が最高のスコアを示した。 この結果を受け、最終年度ではLeptotrichia属とC. albicans間の相互作用解析に取り組んだ。公的機関から入手可能なLeptotrichia属5菌種を用い、血液寒天培地上でC. albicansとの共培養を行ったところ、生育した集落間の接触阻害など、Candidaの発育を抑制する明らかな兆候はどの菌種にも認められなかった。そこで培養条件を液体培地に変更し、混合培養したものと単独培養したものから得られる増殖曲線の比較解析を行ったが、ここでもLeptotrichiaによるC. albicans増殖抑制を示唆するデータは得られなかった。つまり、プラーク中で量的に負の相関を示した検定結果が、必ずしもLeptotrichia属とCandida間の拮抗関係を反映したものではない可能性が高まった。 属レベルでの菌叢解析データを元にしたのでは解像度不足と考えられたため、参照データベースを2つ追加して新たに取得した種レベルでの菌叢解析結果を元に相関検定をやり直したところ、属レベルの解析では埋没していた複数の細菌種が高い相関係数を示し、C. albicansの新たな拮抗または共生細菌候補として浮上してきた。残念ながら本補助期間中には真菌・細菌間相互作用に関わる分子種同定に至らなかったが、今後も新たに見出された拮抗・共生候補細菌種を用い相互作用解析を進めたい。
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