研究課題/領域番号 |
19K10106
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
中島 正俊 東京医科歯科大学, 歯学部, 非常勤講師 (50272604)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スミア層デプロテイナイジング / セルフエッチ接着材 / 象牙質 / 次亜塩素酸水 / 金属イオン |
研究実績の概要 |
接着阻害因子である象牙質スミヤ層をどのように処理するかは象牙質接着において大きな課題である。近年広く用いられている弱酸性のセルフエッチング接着システムを用いた場合には、スミア層は完全に除去されず、レジン接合界面には樹脂含浸スミヤ層が形成・残存する。この樹脂含浸スミヤ層は、象牙質接着性能、特に接着耐久性に影響を及ぼすとされている。申請者らの研究により、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(NaOCl)や微酸性次亜塩素酸水(HOCl)により前処理を行うと、スミヤ層を完全に除去することはできないものの、その酸化・有機質溶解作用により象牙質スミヤ層中の有機成分が溶解除去(スミヤ層デプロテイナイジング)され、樹脂含浸スミヤ層の形成が抑止され、セルフエッチング接着システムの象牙質接着性能を向 上させることが示されている。また、スミヤ層デプロテイナイジングは、被着面の無機成分の割合を増加させ、セルフエッチング接着システムの構成成分である酸性機能性モノマーと無機成分とのケミカルインタラクションを増強することができる。しかしながら、NaOClやHOCl処理は、 水洗後も被着面に酸化成分が残存し、レジンの重合阻害という負の影響を引き起こし、接着性能の低下を招くことも報告されている。この残存酸化成分は、用いた処理液の種類(NaOCl、HOCl)や処理時間及び水洗時間に影響されるものと考えられることから、その影響について検討した。その結果、HOCl処理の方が被着面上のボンディング剤の重合阻害効果は少なく、さらに水洗時間を延長することにより負の影響を縮減することができ、初期接着強さが向上することが明らかとなった。しかしながら、サー マルサイクリングを用いた耐久性試験では、無処理群と同様に接着強さが低下することも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HOCl水溶液処理後に、水洗時間を延長しても微酸性次亜塩素酸水処理による重合阻害効果を完全に払拭することはできていないものと考られる。その後の研究により、この残存酸化成分による重合阻害効果はスルフィン酸などの還元剤を追加塗布することにより改善し、接着耐久性も向上することを明らかになった。さらに、HOCl溶液に塩化ストロンチウムや塩化亜鉛を添加することで、残存酸化成分による重合阻害効果を抑制できることが明らかになり、前処理ステップを減らすことができる可能性が示唆された。スミヤ層デプロテイナイジング効果をもつHOCl水溶液へ金属イオンを添加することにより、塗布象牙質面におけるレジンの重合不全効果の抑制を目指し、スミヤ層デプロテイナイジング処理溶液の作成を行っている。しかしながら、塩化ストロンチウムや塩化亜鉛を混合するとHOCl溶液のpHに影響を与えることが判明し、pH変化はスミヤ層デプロテイナイジング効果に影響を与えるため、その調整と保存方法の確立にやや手間取っている。現在、HOCl水溶液と金属塩溶解水溶液の2液を直前に混合することで、金属イオン添加効果について、レジンの象牙質接着性能の測定および象牙質スミヤ層の化学的および形態的変化の検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
スミヤ層デプロテイナイジング効果をもつ金属イオン添加HOCl水溶液の1液化の確立、そして混合液により処理した場合のレジンの重合阻害効果の発現の有無、 接合界面における抗う蝕効果の有無の検討を行う。これまでの申請者らの研究により、健全象牙質と比べ、う蝕象牙質面上に形成されるスミヤ層では、有機成分の割合が多くその性状が大きく異なることから、デプロテイナイジングに よる接着向上効果は顕著にあらわれることがあきらかとなっている。実際に臨床においては、コンポジットレジンの被着面はう蝕象牙質で構成されることが多いため、う蝕象牙質への応用の検討を推進する。 また、う食象牙質接着界面は、健全象牙質接着界面より長期的安定性に欠けることが指摘されていることから、次亜塩素酸水を用いてスミヤ層デプロテイナイジングにより形成された象牙質接着界面の長期接着性能の検討も行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により研究実施の一部が遅延したこと、及び学会がWeb開催となったため、成果発表のための旅費が生じなかったため
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