研究課題/領域番号 |
19K10110
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
本山 直世 広島大学, 医系科学研究科(歯), 専門研究員 (70509661)
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研究分担者 |
土肥 敏博 広島文化学園大学, 看護学部, 教授 (00034182)
森田 克也 広島文化学園大学, 看護学部, 教授 (10116684)
讃井 真理 人間環境大学, 松山看護学部, 教授 (20412330)
土屋 志津 広島大学, 医系科学研究科(歯), 助教 (60610053)
酒井 規雄 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (70263407)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 血小板活性化因子(PAF) / PAF合成酵素(LPCAT2) / 疼痛の発症と維持 / LPCAT2阻害薬 / 鎮痛薬開発 |
研究実績の概要 |
申請者らは,血小板活性化因子(PAF)が脊髄で疼痛の発症と維持機構に重要な役割を果たすことを報告してきた.そこで誘導型PAF合成酵素LPCAT2阻害薬TSI-01の疼痛緩和作用について検討した. 令和元年度は,神経障害性疼痛モデルマウスおよびPAF脊髄腔内(i.t.)投与によるアロディニア発症マウスで,PAF産生のpositive feedback loopが疼痛の発症と難治化(維持)機構に寄与し,このloopを断ち切ることで疼痛の難治化を防止できる可能性を示した.令和2年度は,各種疼痛モデルマウスでTSI-01の作用について検証した.慢性炎症疼痛,糖尿病性神経障害,がん性疼痛,各種抗ガン薬誘発神経障害モデルにおいても,投与時期に関わらず強力な鎮痛作用を示し,疼痛関連行動は観察期間を通して消失した.TSI-01前処置したマウスでは,いずれのモデルでも疼痛関連行動は発現しなかった. PAF i.t.投与により惹起されるアロディニアは,TSI-01及びLPCAT2ノックダウン前処置により,初期の急峻な応答を残して消失した.PAF受容体阻害では完全に消失し,PAF受容体刺激によるPCAT2の活性化に基づき産生されたPAFが疼痛の難治化に寄与することを明かにした. アロディニアや痛覚過敏の原因の1つに,抑制性神経の脱抑制の関与が知られている.抑制性神経作用薬の作用逆転を指標として脱抑制機構におけるPAFの関与について検討した.PAF i.t.投与及び前述の疼痛モデルでも処置後3~4日間の脱抑制期間が発現していた.全てのモデルの脱抑制はTSI-01およびLPCAT2ノックダウン,PAF受容体ノックダウン前処置により消失し,LPCAT2の誘導・活性化により産生されたPAFが脱抑制の発現機構に関係すること,さらにPAFの下流にBDNF/TrkB系が関与することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度までに,LPCAT2の誘導・活性化を介したPAF産生のpositive feedback loopによる持続したPAF産生亢進が疼痛の発症と維持(難治化)に寄与するとの作業仮説.および,このfeedback loopを断ち切る処置で疼痛の難治化の防止(永続的な疼痛緩和)という新しい治療戦略の妥当性を示すことができた.現在,PAF受容体刺激によるLPCAT2活性化のメカニズムの探索を行っているところである.令和2年度実施計画であった,LPCAT2の発現動態や活性化動態,PAF産生動態等を詳細に検討することができていない.次年度より直接的なエビデンスを集積し,新しい治療戦略の構築を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は,前年度の実施した研究を引き続き進めるとともに,難治性疼痛の発症と維持におけるLPCAT2/PAFの役割についての分子生物学的に解明する.具体的には,①TSI-01投与,脊髄LPCAT2ノックダウンによるLPCAT2発現動態と鎮痛効果の詳細な検証.②PAF i.t.投与及び神経障害後のステージ毎にLPCAT2の酵素活性,リン酸化,発現動態の詳細な解析.③LPCAT2が誘導される細胞について免疫組織化学的に明らかにする.④LPCAT2遺伝子の発現制御機構の解明等.神経障害時に脊髄でPAF産生のpositive feedback loopの形成が疼痛の難治化に寄与することを明確にする. PAF-induced allodynia発現に対するミクログリア阻害薬やミクログリア枯渇薬,アストロサイト阻害薬の有効性からLPCAT2活性化の担当細胞を明らかにする.さらに,TSI-01とモルヒネの低用量との併用による相乗作用について検討し,薬物使用量の低減と副作用発現のリスク低減について検証し,がん性疼痛緩和治療におけるレスキューとしての使用の可能性についても検討する. LPCAT2阻害薬の実験動物の一般症状に及ぼす影響について,一般状態(血圧,呼吸,心機能,繁殖等)及び行動に及ぼす影響について詳細に検討する.行動については行動的側面,神経学的側面,自律神経性側面,および情動性の変容等,多角的に検証する. 以上の検討から,新しい画期的な疼痛治療戦略を構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は他の疼痛モデル及びPAF脊髄腔内投与によるアロディニアに対する詳細な検討に時間を要し,LPCAT2誘導・活性化の機構解明のための研究を次年度に行うこととしたため. LPCAT2の発現動態や活性化動態,PAF産生動態等について詳細な検討を引き続き行う.また,TSI-01の一般症状に及ぼす影響についての研究を遂行するため,次年度使用額として799,414円を計上した.
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