研究課題/領域番号 |
19K10125
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
水谷 幸嗣 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (60451910)
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研究分担者 |
上野 剛史 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (30359674)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 歯科用インプラント / 歯周病 |
研究実績の概要 |
糖尿病は、歯周病の悪化や術後の治癒の遅延をもたらすだけでなく、近年では歯科用インプラントのオッセオインテグレーションにも影響を及ぼすことが疫学的な解析で示されつつある。しかしながら、糖尿病が骨代謝に及ぼすメカニズムは明らかになっていない点も多く、さらに糖尿病を有する患者への歯周組織の再生や、インプラントのオッセオインテグレーションを促進するための明確な解決策はほとんど確立していない。糖尿病の定義である「慢性的な高血糖状態」が歯周組織の創傷治癒や歯周炎の発症・進行など様々な影響を及ぼすメカニズムとして、プロテインキナーゼC(PKC)活性や酸化ストレスにより血管内皮細胞で生じている潜在的な炎症状態に起因している可能性を申請者らは報告している。この機序は、歯槽骨における骨代謝にも当てはまりうると考えられ、本研究課題の核心をなす学術的問いは「酸化ストレスやPKC活性を惹起する高血糖状態をコントロールすることで、糖尿病患者への歯周組織再生療法および歯科インプラントの治療成績は改善するのか」というものであり、その仮説を検証する。本研究では、高血糖によるインスリンのシグナル経路の阻害が骨代謝に及ぼすメカニズムをin vitro にて検索し、その結果に基づき、糖尿病モデル動物への血糖コントロールが歯槽骨の骨代謝の改善をもたらす可能性を、歯周組織再生療法後の治癒、およびインプラントのオッセオインテグレーションの解析から検討する。この研究成果が、糖尿病患者への安全性と予知性の高い歯科治療の確立に貢献できることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
培養骨芽細胞を用いて、高血糖状態が骨芽細胞の増殖能や石灰化能にどのように影響を及ぼすかを、そのメカニズムを含めて検索している。1) マウス頭蓋骨由来骨芽細胞株MC3T3-E1 をグルコース濃度 5.5 mMの骨芽細胞誘導培地(10% FBS含有α-MEM培養液に 50 mg/ml アスコルビン酸、10 mM βグリセロフォスフェート、10 nM デキサメタゾンを添加)で培養し(対照群)、同培養液のグルコース濃度を30-50 mMに調節して高血糖状態を想定した高グルコース条件下での培養をテスト群とすることをパイロット研究をもとに条件確定させた。 解析として、増殖能をWST-8 assay、EdU assay、また細胞遊走能をin vitro wound healing assayにて評価し、細胞機能に障害が生じていることを確認している。培養7日目のALP活性試験にて骨芽細胞分化、28日目にアリザリン染色にての細胞外基質の石灰化の評価をし、高血糖が骨芽細胞の機能におよぼす影響を検索してゆく予定である。さらに、インプラントのオッセオインテグレーションへの影響を検討するために、チタンディスク上での培養にてその変化を解析する。
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今後の研究の推進方策 |
歯周組織におけるインスリンシグナルの解析を詳細にin vitro にて行い、糖尿病が歯周組織再生に影響を及ぼすメカニズムを解明するため、申請者の発表論文(Mizutani et al. J Dent Res. 2014)と同じ方法にて、2つのインスリン経路(PI3Kinase-Akt経路とMAPK経路)にどの程度の阻害が歯肉に生じているか解析する。AktとeNOS、およびErk活性化をウェスタンブロッティングにて評価する。 また、実験動物での所見が人においても説明可能かを、糖尿病患者の歯肉線維芽細胞のインスリン抵抗性の解析と、エムドゲインによる細胞機能への影響について検討するために 糖尿病患者の歯肉の線維芽細胞を用いて研究する。歯周組織再生に関与しうる細胞の増殖能、遊走能を評価する。このいずれもAkt、Erkの活性の影響を受けるものであり、高血糖によるインスリンシグナルの阻害がヒトの歯周組織の細胞にも生じうるかを検証する。さらに、この培養歯肉線維芽細胞にエムドゲインによる刺激を加え、高血糖状態での増殖能、遊走能の変化を観察し、低下しているようであれば、その改善効果にPKC阻害剤などが有効か検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由 動物実験の歯周炎モデルの実施にあたっての検討や実験系の安定に時間を要し、細胞を用いたin vitroでの検討を先行しており、想定されていた動物を使用する実験が遂行しきれておらず、動物実験を次年度に再計画した。 使用計画 本年度に実施できなかった実験動物の遂行の費用とする。具体的には実験動物の購入およびその維持、解析に使用を予定している。
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