糖尿病は、歯周病の悪化や術後の治癒の遅延をもたらすだけでなく、近年では歯科用インプラントのオッセオインテグレーションにも影響を及ぼすことが疫学的な解析で示されつつある。しかしながら、糖尿病が骨代謝に及ぼすメカニズムは明らかになっていない点も多く、さらに糖尿病を有する患者への歯周組織の再生や、インプラントのオッセオインテグレーションを促進するための明確な解決策はほとんど確立していない。糖尿病の定義である「慢性的な高血糖状態」が歯周組織の創傷治癒や歯周炎の発症・進行など様々な影響を及ぼすメカニズムとして、プロテインキナーゼC(PKC)活性や酸化ストレスにより血管内皮細胞で生じている潜在的な炎症状態に起因している可能性を申請者らは報告している。この機序は、歯槽骨における骨代謝にも当てはまりうると考えられ、本研究課題の核心をなす学術的問いは「酸化ストレスやPKC活性を惹起する高血糖状態をコントロールすることで、糖尿病患者への歯周組織再生療法および歯科インプラントの治療成績は改善するのか」というものであり、その仮説を検証する。本研究では、高血糖によるインスリンのシグナル経路の阻害が骨代謝に及ぼすメカニズムをin vitro にて検索し、その結果に基づき、糖尿病モデル動物への血糖コントロールが歯槽骨の骨代謝の改善をもたらす可能性を、歯周組織再生療法後の治癒、およびインプラントのオッセオインテグレーションの解析から検討する。この研究成果が、糖尿病患者への安全性と予知性の高い歯科治療の確立に貢献できることを目指す。
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