研究課題/領域番号 |
19K10143
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
多田 浩之 東北大学, 歯学研究科, 講師 (70431632)
|
研究分担者 |
西岡 貴志 東北大学, 歯学研究科, 助教 (50641875)
松下 健二 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 口腔疾患研究部, 部長 (90253898)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 慢性歯周炎 / Fusobacterium nucleatum / 好中球 / 好中球細胞外トラップ / 口腔粘膜バリア破綻 |
研究実績の概要 |
慢性歯周炎において、歯周病原細菌により誘導される慢性炎症は歯周組織を破壊する主体となることから、慢性炎症に至る病態解明は歯周予防・治療法の開発に大きな意義を持つ。本研究は、歯周病原細菌の感染により好中球から産生される好中球細胞外トラップ(NETs)の誘導、ならびにNETsによる歯肉上皮バリアの破綻機構を解明する。慢性歯周炎の歯周ポケットは、歯周病原細菌の感染に応じて好中球を中心とする免疫担当細胞が集積する。歯周ポケットに集積する免疫担当細胞の実に約80~95%は好中球であり、加齢に伴い歯周ポケットに集積する好中球数は増加する。歯周ポケット内の歯周病原細菌により好中球は持続的な活性化され、慢性炎症による歯周組織破壊が誘導される。 生体が大規模な感染に曝露された際、好中球はNETsという網状の細胞内容物を放出し病原体を破壊する。一方、持続的なNETsの放出は多様な慢性炎症性疾患を増悪させることが示唆されている。 われわれは、ヒト好中球に歯周病原細菌Fusobacterium nucleatumを感染させるとNETsが産生されることを見出した。次にF. nucleatum感染による産生されるNETsに結合する各種サイトカイン群の発現について網羅的に解析した結果、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)が著明に発現することが明らかとなった。MIFは多様な炎症性サイトカインの産生を調節し、炎症の惹起を司ることから、NETsが口腔粘膜バリア機能に及ぼす影響について、血管内皮細胞による検討を行った。その結果、ヒト血管内皮細胞をNETsで刺激すると、MIF依存的に血管内皮細胞の接着分子であるICAM-1発現が亢進した。以上の研究成果から、歯周病原細菌の感染により好中球が産生するNETsは、口腔粘膜を構成する血管内皮細胞に炎症を誘導することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の研究計画に基づき実験を実施した結果、次の研究成果が得られた。 ヒト好中球からのNETs産生についてシトルリン化ヒストンH3発現を測定した結果、F. nucleatum感染後の上清は多量のシトルリン化ヒストンH3を含むことが明らかとなった。そこで、同NETsに含まれる各種サイトカイン群の発現についてサイトカインアレイ法で網羅的に解析した結果、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)が著明に発現することが明らかとなった。MIFは多様な炎症性サイトカインの産生を制御し、炎症の惹起を司ることから、次にNETsが口腔粘膜バリア機能に及ぼす影響について、血管内皮細胞による検討を行った。その結果、ヒト血管内皮細胞をNETsで刺激すると、MIF依存的に血管内皮細胞の接着分子であるICAM-1発現が亢進した。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は次の研究計画を実施する。 F. nucleatum感染により誘導されるNETsが歯肉上皮細胞に炎症を誘導する可能性について解析する。気道上皮細胞をNETsで刺激すると、IL-6, IL-8やIL-33産生を誘導することが示唆されていることから、NETsによる歯肉上皮細胞のこれらサイトカインの産生誘導をELISA法により測定する。 次に、NETsによる歯肉上皮細胞におけるバリア破綻作用について解析する。Claudin-1は歯肉上皮バリアを担う分子であることから、NETsが歯肉上皮バリア機能を低下させる可能性について、NETsで刺激した歯肉上皮細胞のclaudin-1発現の低下 (Western blotting法)ならびに歯肉上皮バリア機能 (経上皮電気抵抗測定法[TEER法]およびFITC-dextran法)について測定する。 さらに、歯周病原細菌由来NETsによる血管内皮細胞におけるバリア破綻作用について解析する。血管内皮細胞が産生するdevelopmental endothelial locus-1 (Del-1)は、 ICAM-1-LFA-1を回する歯肉上皮細胞と好中球の接着を阻害するバリアを担う。NETsがHUVEC のDel-1産生を抑制させることが明らかにされた際は、同作用がNETsに発現 するMIFにより誘導される可能性について、MIFアンタゴニストであるISO-1を用いた解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度使用額は、今年度の研究が効率的に推進したことにより発生した未使用額である。 (使用計画) 次年度使用額は、令和2年度請求額と合わせて次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
|