研究課題/領域番号 |
19K10156
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
諸冨 孝彦 愛知学院大学, 歯学部, 教授 (10347677)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 覆髄 / 生体活性ガラス / 生体適合性 / 象牙質 |
研究実績の概要 |
本年度は、象牙質-歯髄複合体の再生を誘導する際の、再生象牙質様硬組織誘導材料および補填材料として、硬組織形成の核となるBioactive Glass(BG)粉末について検討を深め、新規BG粒子配合粉末材料の性状と臨床応用について評価を行った。 以前、我々はBGの覆髄材料としての有用性を報告している。昨年度、我々は微粒子状の新規BG粒子配合粉末材料を開発し、この材料の生体適合性と物理化学的特性について検討した。そこで本年度は、この新規BG粒子配合粉末材料を既存のBG配合セメントに混入し、覆髄剤としての可能性を評価した。その結果、現在覆髄剤としてGold StandardとされるMineral trioxide aggregate (MTA)と比較して細胞毒性が低いうえ、ラットを用いた直接覆髄実験においてもMTAと同等以上の象牙質様硬組織の形成誘導能が確認された。さらに適切な操作性と覆髄効果を発揮する最も優れたBG配合セメントへの新規BG粒子配合粉末材料の混入割合につき種々の条件を変えて検討し、混入割合を変えても組織為害性は変化せず、安全性が確認された。一方で、混合割合を変化することで象牙質様硬組織形成誘導能は変化するもののいずれにおいてもMTAと同等以上の効果を発揮することが確認され、術者の意図する操作性へ任意に調節することが可能であることが確認された。 続いて、この材料を根管穿孔部の封鎖材料や歯根尖切除術の後に用いる逆根管充填用材料としての応用の可否についても検討を行った。前年度にin vitroの研究は実施済みであったため、今年度はin vivo研究を主として検討を進め、マウスを用いた動物実験により、生体適合性が確認された。 これらの成果から本材料は歯科材料としての市販が開始され、実際に臨床の場での使用が開始された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、年度途中で所属研究機関を異動することとなった。そのため、研究の遂行が長期間にわたり中断することとなった。また、異動後の所属機関では研究設備等の関係により、これまで行ってきた研究計画の遂行が現状のままでは非常に困難であり、研究環境の構築および整備が必要となった。加えて、前任者の退職後1年以上の空位期間があったため学内における様々な業務が滞っており、そのため研究エフォート率の低下が多大であった。以上により、本年度に予定していた研究計画の実施が大幅に制限されることとなり、研究進捗状況が遅れる結果となっている。 しかしながら、当該年度は新規BG粒子配合粉末材料の覆髄剤に適した混合割合を規定することができ、割合を変化させ術者が自由に任意の割合に調節しても機能や生体適合性は損なわれないことが明らかになった。これらの研究成果により、この新規BG粒子配合粉末材料を直接覆髄剤として年度内に市販することができた。これまでの研究成果を実際の臨床に直接的に役立たせることができたことの意義は大きいと思われる。 またこの新規BG粒子配合粉末材料の有する良好な種々の性質を活かし、これまでに想定していた覆髄剤の範疇を超え、穿孔封鎖用材料、そして逆根管充填材料としても有用であることを明らかにすることができた。これらの用途拡大により、同様な用途に国外では多く用いられるMTAを代替する材料となり得る可能性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究をこれまで通り遂行するためには、現研究室の環境整備が必要である。以下の研究を遂行するため、先ずは引き続き早急な研究室の環境整備の構築に努める。 1)新規BG配合粉末材料の覆髄効果の検証:前年度に発売が開始された新規BG配合粉末の覆髄効果をin vitroおよびin vivo研究にて検証し、最大の効果を発揮するよう改良を目指してデータを取得する。これにより、組織為害性をさらに低減させ、良質な象牙質様硬組織の形成を誘導し、操作性にも優れるBG配合覆髄剤への進化を目指す。 2)ゲル状覆髄剤開発のためのヒアルロン酸高含水性ゲルについての解析:歯髄細胞の増殖および分化に適したうえ、シリンジによる注入が可能な粘弾性を有するヒアルロン酸(HA)高含水性ゲルの条件を確認するため、水分含有率を細かく調整して多種類のゲルを作成し、in vitroにおける歯髄細胞の増殖および分化に最適な条件を検索する。続いて、ラット臼歯断髄モデルによるin vivo研究により、in vitroで得られた条件が実際に歯髄腔における歯髄細胞の増殖や血管の伸長を誘導するに適するか確認する。 3)ヒアルロン酸高含水性ゲルへの各種混合物の条件検索:同定した最適な条件を持つHA高含水性ゲルに、耐性誘導能、抗炎症作用、細胞増殖能および硬組織誘導能等を有する各種製剤や生理活性因子、また新規BG配合粉末等を各種の濃度や粒径に調整後混合し、各種細胞を用いた三次元培養法により、生物学的活性を発揮させるための条件について検索する。その後のin vivo研究では、最初はマウスを用いた皮下埋入試験により生体内での生体親和性について検索する。続いてラット覆髄および断髄モデルを用いて覆髄・断髄時の刺激への耐性誘導能、抗炎症作用、細胞増殖誘導能、象牙芽細胞様細胞への分化誘導能および象牙質様硬組織形成誘導能が発揮され、かつ操作性に優れる条件について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度途中で所属研究機関を異動することとなり、研究の遂行が長期間にわたり中断した。また、異動後の所属機関では研究設備等の関係により、これまで行ってきた研究計画の遂行が現状のままでは非常に困難であり、研究環境の構築および整備が必要となった。加えて学内における様々な業務のため、研究エフォート率の低下が多大であった。以上から次年度使用額が生じた。次年度は、本研究を遂行するために必要な、現研究室の早急な研究室の環境整備の構築を行う。その上で、以下のとおりの研究を遂行する。 1)新規BG配合粉末材料の覆髄効果の検証とゲル状覆髄材開発のためのヒアルロン酸高含水性ゲルについての解析:前年度に発売が開始された新規BG配合粉末の覆髄効果をin vitroおよびin vivo研究にて検証する。続いて歯髄細胞の増殖および分化に適したうえ、シリンジによる注入が可能な粘弾性を有するヒアルロン酸(HA)高含水性ゲルの条件をin vitroおよびin vivo研究により確認する。 2)ヒアルロン酸高含水性ゲルへの各種混合物の条件検索:同定した最適な粘弾性を持つHA高含水性ゲルに、耐性誘導能、抗炎症作用、細胞増殖能および硬組織誘導能等を有する各種製剤や生理活性因子、また新規BG配合粉末等を各種の濃度や粒径について、in vitroおよびin vivo研究にて検討する。
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