研究実績の概要 |
エナメル質のマイクロクラックは,tooth wearの起点としてその進行に関与するものと考えられている。しかし,マイクロクラック進展のメカニズムについての詳細は不明な点が多い。そこで,エナメル質マイクロクラックモデルの構築とともに,このモデルを利用したマイクロクラック進展機序の解明からマイクロクラック進行抑制材あるいは簡易で効果的な予防法の確立を目指すことを目的とした。 そこで,咬合接触を原因とするマイクロクラックの発生機序を解明するために,衝突摩耗試験機を応用したモデルを構築するとともにマイクロクラックの発生が咬合状態とどのように関連しているかを検討した。すなわち,アンタゴニストしてジルコニアスタイラスを用いて,牛歯エナメル質試片に対して摩耗試験機の荷重負荷および回数とともに負荷条件(タッピング,グライディング)を変更して,エナメル質に生じた変化を摩耗量の測定および亀裂進展状態から観察した。 その結果,タッピングモーションを主体とした衝突摩耗はグライディングモーションを主体としたものと比較して,エナメル質の摩耗量も有意に高く,亀裂が深部まで達するとともに劈開による損耗パターンが顕著であった(Namura Y, Takamizawa T et al., Eur Oral Sci 2021, in press)。この結果を得て,歯質の再石化に関与するとされるZn含有グラスアイオノマーセメントを応用した際のエナメル質に生じるクラックの挙動についても同様な実験を行った。その結果,Zn含有グラスアイオノマーセメントを応用したエナメル質は,これを応用していないエナメル質に比較して,摩耗量が減少する傾向を示した。したがって,Zn含有グラスアイオノマーから溶出している微量元素は,マイクロクラック発生の抑制およびtooth wearの予防に効果があることが示唆された。
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