研究課題/領域番号 |
19K10162
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
坂上 竜資 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (50215612)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | apical bud / セメント質 / Hertwig上皮鞘 / Malassezの上皮遺残 / 上皮間葉転換 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、歯胚の上皮系細胞を移植して動態を追跡することで歯の発生と分化のメカニズムを解明し、再生療法の発展につなげることである。マウス切歯根尖には上皮系の幹細胞からなるapical budがあり、この働きにより生涯に亘って歯が伸び続ける。われわれは、GFP陽性トランスジェニックマウスの切歯apical bud細胞を採取後に分散化して、野生型マウス切歯に注入する手技を開発した。申請計画では、GFP陽性マウス切歯のapical bud細胞を採取後に分散化して、野生型マウスの臼歯歯根膜腔と臼歯歯胚とに注入する。apical bud細胞は、エナメル芽細胞/Hertwig上皮鞘/Malassez残存上皮に分化するので、臼歯に移植した細胞の動態を観察することで歯の発生機構を解明し、さらに細胞を用いた歯周組織再生療法につながる知見が得られる可能性がある。 最初の1年間は、動物実験と組織切片作成のための最適条件決定に費やし実験手技はほぼ完成した。2年目となる今年度は、動物実験をほぼ終了し、埋入されたサンプルを病理組織切片として採取し蛍光染色することによって解析中である。細胞の埋入後6ヶ月まで経過観察しているが、多くのサンプルで、GFP陽性の細胞(移植したアピカルバッド由来の細胞)が、セメント質内および周辺でオステオカルシン陽性の細胞として遊走しているこを確認した。さらに、GFP蛍光を追跡することによって、セメント質内に取り込まれている細胞、歯根膜腔に取り残されている細胞、骨に取り込まれている細胞など、上皮系・間葉系の多様な細胞に分化していることを確認している。われわれは、一部の細胞は、上皮間葉転換を生じてセメント芽細胞に分化していると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度からは大学院生の高瀬稔君とともに、週に1日から2日のペースで順調に動物実験と資料作成を行っている。動物実験手法は、高瀬君も十分に習得し、apical budの採取に関しては、ほぼコンスタントに単離できるようになった。 実験計画は少しずつ変更を加えながら、チューンアップを図っている。今年度における新たなの進展は、GFP蛍光をより鮮明に見るために、チキン抗GFP抗体を使用することとしたこと、抗オステオカルシン抗体により、セメント質・歯槽骨などの硬組織を同定するようにしたことである。動物実験はほぼ終了しており、現在は組織切片の切り出しと蛍光染色、写真撮影を行っている。研究の第2段階である、オルガネラを作成して移植する操作にはまだ至っていない。 以上より、実験計画の進捗状況は概ね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
凍結標本の作製は、川本法にて順調に進んでいる。クライオトームを用いた未脱灰凍結標本の作製も問題なく進行している。エナメル質を含まない面で標本を切断するとともに、なるべく新しいタングステンブレードを使用することにより、断裂の少ない歯根部の横断切片を採取できている。パラフィン包埋を用いずとも、凍結切片のHE染色と蛍光免疫染色のみで研究を完結できそうである。 現在は、1次抗体として、チキン抗GFP抗体とラビット抗オステオカルシン抗体、2次抗体にFluor488と568を用いてGFPとオステオカルシンとの共局在を検証している。これまでの研究で、移植したapical budは、セメント質、歯根膜、歯槽骨に広く分布していることが明らかになった。もともとは上皮系であるこの細胞塊が、どのような条件で分化するのかは不明である。特筆すべきは、この細胞が上皮系から間葉系にいたる強い多分化能を有することであり、再生医学における有力な細胞ソースとして注目に値する。ヒトにおいてこのような細胞を採取することは現実的には難しい。しかしこの細胞をより詳細に検証することにより、iPS細胞などから類似する細胞を誘導できる可能性もある。研究の最終年度には、当初の研究計画に入れていたpodopolanin、odam、amelogenin、vimentin、osteopontinなども試すとともに、オルガネラの作製も試みたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、動物の購入・飼育と病理組織切片作製のための道具と試薬の購入のための経費に充てた。納入時期がタイミング的に新年度となったために、今年度の経費には計上されていないが、多量の1次抗体と2次抗体を年度末から新年度にかけてすでに購入している。 昨年度からは、大学院生の高瀬稔君が新たな戦力として加わり、実験知識と技術の共有という側面でも安心して実験遂行ができるようになっている。研究遂行にあたっては、2人で共同で同時進行ですすめることができるので、凍結標本が順次作製されており、病理データが増えている。データの蓄積と実験結果の整理のために、次年度はさらに消耗品や整理のための機材が増えると考えており、今年度分の使わなかった予算が必要になる
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