本研究の目的は、歯胚の上皮系細胞を移植して動態を追跡することで歯の発生と分化のメカニズムを解明し、再生療法の発展につなげることである。マウス切歯根尖には上皮系の幹細胞からなるapical budがあり、この働きにより生涯に亘って歯が伸び続ける。われわれは、GFP陽性トランスジェニックマウスの切歯apical bud細胞を採取後に分散化して、野生型マウス切歯に注入する手技を開発した。GFP陽性マウス切歯のapical bud細胞を採取後に分散化して、野生型マウスの臼歯歯根膜腔と臼歯歯胚とに注入した。apical bud細胞は、エナメル芽細胞/Hertwig上皮鞘/Malassez残存上皮に分化するので、臼歯に移植した細胞の動態を観察することで歯の発生機構を解明し、さらに細胞を用いた歯周組織再生療法につながる知見が得られる可能性に期待した。 実験1年目は、動物実験と組織切片作成のための条件設定に費やし、2年目に動物への移植をほぼ終了した。3年目は細胞の埋入後6ヶ月まで経過観察し、GFP陽性の細胞(移植したアピカルバッド由来の細胞)が、セメント質内および周辺でオステオカルシン陽性細胞として遊走しているこを確認した。さらにセメント質内に取り込まれているGFP陽性細胞は、免疫蛍光染色によってセメント芽細胞に特徴的なタンパクであるセメンタム1陽性を示したことから、セメント芽細胞に分化していることが強く示唆された。以上から、アピカルバッド由来の細胞は歯根膜腔に取り残されている細胞、骨に取り込まれている細胞、セメント芽細胞に分化する細胞など、上皮系・間葉系の多様な細胞に分化していることを確認することができた。われわれは、この細胞の分化能を応用することで、将来的には歯周組織再生療法に発展できると展望している。
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