研究実績の概要 |
多能性幹細胞から副甲状腺細胞の分化誘導については、現在のところ有効かつ確立された分化誘導法は未だに開発されていない。ヒトES細胞から副甲状腺ホルモン(PTH)を発現する副甲状腺細胞様の細胞の作製が報告されているが、細胞の機能評価等が十分にされておらず、その後も有効な分化誘導法についての報告も無い。そこで、ヒトiPS細胞を用い発生期の分化系譜に沿った形での新規誘導方法の開発を試みた。生体の発生において副甲状腺は胚体内胚葉(Definitive endoderm, DE)から前方前腸を介し、咽頭弓を経て形成される。また、胸腺は発生の起源を副甲状腺と同じくするため、胸腺の分化誘導法も参考として分化誘導法を立案した。分化誘導法は、副甲状腺の発生過程をもとに、1)Activin Aを含む分化誘導培地によるDEへの分化誘導 2)レチノイン酸を含む培地による咽頭弓細胞への誘導 3)ソニックヘッジホッグ(Shh)による副甲状腺分化を基軸とし、分化誘導効率を調整するために化合物などの添加や培養時間の調整を適宜行った。分化誘導後の細胞を用い、PCR、フローサイトメトリー、免疫蛍光染色などの解析を行い、副甲状腺細胞への分化誘導を評価した。また、培養上清中のPTH産生をwhole PTH、インタクトPTHそれぞれについて測定した。その結果、DEや咽頭弓の分化段階において発現するマーカー(CXCR4, EpCAMなど)を確認することができた。最終分化段階においては、PTH, カルシウム受容体とともに副甲状腺分化において重要とされる転写因子GCM2の発現が一部の分化誘導系においてみられた。しかしながら、培養上清中へのPTH産生については芳しい結果を得ることができなかった。以上より、現在の副甲状腺細胞誘導系ではiPS細胞からわずかに副甲状腺細胞を作成できるものの、効率は非常に低いと考えられた。
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