多能性幹細胞から副甲状腺細胞の分化誘導については、現在のところ有効かつ確立された分化誘導法は未だに開発されていないため、ヒトiPS細胞からの副甲状腺細胞分化誘導法の開発と、分化した副甲状腺細胞の同定を試みた。ヒトiPS細胞を副甲状腺および胸腺の共通祖先である第三咽頭弓に分化誘導し、その後Sonic hedgehogによる刺激により副甲状腺細胞を成熟分化させる分化誘導法を試みた。この分化誘導法では、各発生段階に応じた分化マーカーの発現が確認され、in vitroにおいて発生期の分化系譜に沿った副甲状腺誘導が行われていることが確認された。培養中の細胞の免疫蛍光染色により、分化誘導過程で形成される特異な細胞塊に副甲状腺ホルモン(PTH)を産生する細胞が存在することが明らかとなった。さらに、カルシウム感受性受容体(CaSR)と上皮細胞接着分子(EpCAM)を発現する細胞が分化誘導された副甲状腺細胞であることが明らかとなった。一方で、今回開発した分化誘導法による副甲状腺への分化誘導効率は低く、作成した細胞の機能評価を難しいものとしていた。そこで研究の最終年度では、in vivoで副甲状腺の過形成を促進すると考えられているEGFRやErbB2を活性化させる物質を用いてより効率的な分化誘導を試みた。副甲状腺過形成の要因と考えられ、EGFR のリガンドであるTGF-αの刺激により、CaSRとEpCAM共陽性細胞は増加し、一方EGFRのインヒビターであるErlotinibによって抑制された。これらの結果から、副甲状腺細胞分化誘導系においてTGF-α/EGFRシグナルを活性化させることが、副甲状腺への分化誘導効率の上昇に有効であることが示唆された。
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