研究課題/領域番号 |
19K10186
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
根津 尚史 北海道医療大学, 歯学部, 准教授 (40264056)
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研究分担者 |
遠藤 一彦 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (70168821)
建部 二三 北海道医療大学, 歯学部, 助教 (10534448)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 温度誘起ぬれ性可逆転移 / 転移温度の環境極性依存 / NIPAm(疎水/親水転移モノマー) / HEMA(極性モノマー) / MMA(低極性モノマー) / 三元モノマー共重合体 / 透明性 / 接触角 |
研究実績の概要 |
1.前年度に設計の確定した合成条件に従い、NIPAm/(HEMA+MMA)三元共重合体を低温加熱の粉液重合法で合成した。加圧下の重合により無気泡の重合体を得た。重合体は、三元モノマーの組成により透明性から半透明性を呈した。 2.10℃⇔40℃の繰り返し変化で、これに対応した透明性の上昇⇔低下がみられた。このことから、温度変化により重合体中のNIPAm部の疎水/親水転移が生じて、重合体中のミクロ相状態が変化することで光学特性に影響が表れたと考えられた。 3.透明/不透明性は、粉液重合で用いたPMMA粉部(MMAのみの重合体)と、重合で生じたマトリックス部(NIPAm-HEMA-MMA三元モノマーの重合体)の屈折率の違いに関連すると考察された。 4.試料に温度変化を与えながら、本課題の中間成果の一つであるTopview法でぬれ性評価を行い、試験液(水)の拡張/収縮から、NIPAm単独重合体では、20⇔40℃の繰り返し変化に対してぬれ性が少なくとも4サイクルは可逆的に変化することが示された。 5.0%HEMAのベースレジンでは、20℃に比べて40℃でぬれ性が低下し、温度依存のぬれ性を呈するレジンであることが示された。接触角の試験液の蒸発対策に工夫が必要であるが、連続的に温度を変化させれば、接触角が転移的に変化する温度を見出せる見通しが得られた。一方、100%HEMAのベースレジンでは両温度でぬれ性に差はなく、レジン内のNIPAm部の疎水/親水転移温度が20~40℃の範囲内にないことがうかがわれた。 6.温度依存のぬれ変化が期待よりも小さかった問題については、現在のランダム共重合体ではなく、NIPAm部をグラフト化し、主鎖のHEMA、MMA部をブロック化したグラフト・ブロック共重合体に設計を変更することで改善を図れる見通しが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
進捗:(1)前年度に方針の決まった設計に基づき、NIPAm-HEMA/MMAレジンの低温加熱重合を行、無気泡の透明または半透明の重合体が得られた。(2)重合体について、①温度変化による疎水/親水相転移を反映したと考えられる透光性の変化が確認され、②温度に依存した接触角の変化が認められた。以上より、温度変化によりレジンの疎水/親水性を可逆的に変化させるという目的の一定部分が達成された。 遅れ:疎水/親水転移に関連する可能性が高い物性変化は、期待よりも非常に弱いもので、これを増幅する工夫の必要がある、ぬれ性の変化が転移的であることをまだ証明できていない点で、目的高分子の合成が完成には至っていない。そのため、その先に予定されている生体安全性評価、歯科材料応用の検討になお隔たりがあり、計画の進行は遅れている。前年度に続くCOVID19問題の影響で、教育に平時以上のエフォートを大きく割かれた状態が解消されず、実施期間の猶予で見直した計画をその通りに遂行できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度内に本研究の核心部分を完遂・完結するため、以下の事項を目標としつつ、優先順位の高いものに絞って実験を行う。 (1)合成:①NIPAm/HEMA/MMAブロック共重合体を合成する(現在はNIPAm/HEMA/MMAランダム共重合体)。②HEMA/MMAランダム共重合体またはブロック共重合体を主鎖とし、NIPAmポリマーをグラフトした、グラフト共重合体を合成する。 (2)物性等:①(1)で得られた重合体に対して、ぬれの温度依存性を確認する。②(1)も含め、これまでに得られた重合体の機械的性質(現有の材料試験機を使用)、成分溶出性(現有のUV/IR/Raman分光分析装置を使用)、細胞毒性評価を行う。 (3)歯科材料への応用:重合に用いた三元モノマーの、各種歯科材料表面でのぬれ性およびその温度依存性を、接触角測定により確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表者、分担者ともに、COVID19感染防止対応に関わる学務のエフォートが引き続き高く課題遂行に十分に注力できなかった影響が大きい。とりわけ、種々の物性評価を分担者に委ねている高分子材料の合成が計画よりも遅れたこと、合成された材料で物性評価を進める中で、課題目的の十分な達成のために高分子の設計変更の必要が判明したことから、昨年度に立案した変更計画にさらなる遅れが生じた。 当初の計画からの幾分の変更も念頭に、課題の核心部分の完遂に必要な最小限の実験を行う。実施に当たっては効率を重視して外部機関の分析サービスや機器利用が必要となる。また、論文発表を中心とした成果の取りまとめにかなりの出費が見込まれる。これらに対応するために繰越予算を当てる。
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