研究課題/領域番号 |
19K10194
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研究機関 | 朝日大学 |
研究代表者 |
玉置 幸道 朝日大学, 歯学部, 教授 (80197566)
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研究分担者 |
奥山 克史 朝日大学, 歯学部, 准教授 (00322818)
新谷 耕平 朝日大学, 歯学部, 助教 (50824455)
川木 晴美 朝日大学, 歯学部, 准教授 (70513670)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ケイ酸カルシウム / 覆髄材 / 石膏 / 機械的強さ / 生体親和性 |
研究実績の概要 |
2019年の結果を受けて、2020年では石膏の添加についての検討を詳細に行った。MTAは硬組織再生能、殺菌作用に優れる有用な歯科材料であるが高額であることが大きな欠点である。そこでコストを削減することを目的として、試薬炭酸カルシウムと珪藻土(二酸化ケイ素)をベースにMTAセメントの核を成すケイ酸カルシウム(ケイ酸二カルシウム、ケイ酸三カルシウム含む)の合成を検討した。昨年の報告から、炭酸カルシウムと珪藻土を2CaCO3+SiO2→Ca2SiO4+2CO2の式にしたがい秤量し、蒸留水で溶きペースト状にしたのちに電気炉内で1300℃、1時間焼成したものを試作ケイ酸カルシウムとした。しかし、この合成粉末は蒸留水の使用による速やかな硬化が見込めないことが判明したため、石膏を添加して操作性の改善に対応した。ケイ酸カルシウム石膏含有タイプのケイ酸カルシウムセメントを3種類(ケイ酸カルシウム:石膏の比率が1:4,1:3,2:5それぞれ25wt%、33wt%、40wt%)準備して、硬化時間、圧縮強度などの物理的特性を評価し、セメント溶出液を含む培地で増殖したヒト歯髄幹細胞(hDPSC)の応答から生体親和性についても検討を加えた。結果は、ケイ酸カルシウムが本実験での焼成により容易に合成できることを明らかとなり、さらに石膏の添加により歯科用セメントとしての機能である一定の圧縮強さを有し、硬化時間も短縮するのに役立つことが判明した。また、合成された石膏含有ケイ酸カルシウムセメントは最小限の細胞毒性を示し、hDPSCの増殖を阻害しなかった。これらの結果は、新たに開発されたケイ酸カルシウム材料が有望な覆髄材料である可能性を示唆した。現在は、初期の焼成に炭酸カルシウムではなく硫酸カルシウム(歯科用石膏)を利用することで、歯科で生じる廃材での合成利用が可能となるかについて、さらに検討を加えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍で教育現場である大学での急な遠隔(リモート)講義への対応が予想以上に厳しく時間を割かれたことや、テレワークの推奨等も叫ばれたていたなかで、予定していた実験やそれに伴う計測に関して近隣の大型分析装置を有している企業・大学への出向が難しくなり、分析作業が遅々として進まず夏までは動きが取れなかったことが挙げられる。さらに、この流れは秋口より始まった第二波、年末には第三波と断続的に生じてしまったため、研究の進行に妨げが生じてしまった。 2020年度は今までの研究成果のまとめとして、Dental Materials Journalに論文投稿を行い一つの区切りとした。論文は2020年の86番目に投稿され、受理後に10月にアクセプトされた。現在は掲載ページが入るのを待つのみとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は下準備としての炭酸カルシウムの代替として硫酸カルシウムの適用を検討し、既に同様の合成化合物を焼成のみで確認することができた。ただし炭酸カルシウムが比較的低温(論文では1300℃焼成だが理論的には800℃超で可能)で分解し合成に寄与するのに対し、硫酸カルシウムは分解自体が1200℃で発現するため、必然的に焼成温度が高くなる。一方では、同様に石膏添加型のケイ酸カルシウムセメントを創製しようとすると、同じ石膏からの化合物という点では優るところがある。また硫酸カルシウムをベースに合成を行えば、得られた合成化合物をリン酸水溶液で練和してリン酸カルシウム生成にも有利に働くと考えられるため20201年度はこの試みを追随していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により海外をはじめとしたいくつかの歯科関連学会が誌上あるいはWeb開催となり、予定していた出張旅費がほとんど不要になってしまったことや、研究自体が遅延してしまい材料や試薬の買い足しが不要であったこと、合成化合物の分析に要する費用が加算されなかったことなどが大きな消費に至らなかった主な理由である。加えて、投稿論文もページ数が未だに入らず年度内に請求が来なかったことが挙げられる。 次年度の先行きは不透明であるが,教育機関に対しては昨年のような登校自粛に至らないようであり、リモート講義用のビデオ撮りにも慣れた環境下では2020年度に予定していた研究も含めて精力的に前進していく所存である。
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