本研究では、経口摂取を中止せざるを得ない状態を客観的に評価するための指標を作ることを目的として研究計画を立案したものの新型コロナ感染症のまん延により当初の研究対象施設がその受け入れ先機関となってしまい、研究を継続することが困難となってしまった。そこで、研究代表者が診療支援を実施している介護療養型医療施設を対象に、長期入院中で主治医より経口摂取中止についての診断依頼を受けた寝たきり患者66名(男性35名、女性31名、平均年齢92.3歳)に対して実施した嚥下造影検査の結果から、経口摂取中止の判断基準として最も重視している点について検討した。その結果、年齢や性別、背景疾患に関わらず、誤嚥と嚥下反射遅延が認められる場合に、経口摂取を中止と診断した場合が多いことが示され、適切な環境設定のもと適切な検査を実施すれば、嚥下造影検査は、経口摂取中止をすべきかどうかの客観的な判断基準となりえることを明らかとした。さらに、研究期間中に研究代表者が広島大学より藤田医科大学へと転任したため、広島で実施していたこれらの研究を継続することが出来なくなったため、藤田医科大学でのこれまでの臨床成果をまとめることで、がん終末期の経口摂取の中断と口腔状態について検討することとした。その結果、全身状態や経口摂取状況は死亡3週前より継続的に悪化していくのに対して,口腔内の環境は死亡週の2週前に一気に悪化していくことがわかった。とりわけ、口腔内状態では唾液の性状が変化し、口腔乾燥が著明となっていくことが示され、療養型病院に入院している要介護高齢者とはまた違ったがん患者の終末期の一端を明らかにすることが出来た。
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