我々が長崎大学歯学部1年生に教育業務の一環として実施した15年間のアンケート調査結果より,幼少期における歯科治療体験の実態と,現在の歯科治療への恐怖心との関連を明らかにした.本研究は,本学医歯薬学総合研究科(歯学系)倫理委員会(承認番号23041801)にて承認済みである. 【対象と方法】アンケートは,長崎大学歯学部1年生計190名(2007年:50名,2012年:43名,2017年:49名,2022年:48名)に対し入学直後に実施し,初めての歯科受診時の状況,現在の歯科受診時の状況等に関する10項目の質問を設けた.現在の歯科治療に対する恐怖心の有無を目的変数として,単一回答項目には名義ロジスティック解析を,複数回答項目にはカテゴリカル因子分析を行い,現在の歯科治療への恐怖心との関連を分析した. 【結果】有効回答は182名から得られた.うち,現在歯科治療に対して恐怖を抱いている学生は2007年:11名(22.4%),2012年:6名(14.6%),2017年:9名(19.1%),2022年:4名(8.9%)であった.名義ロジスティック解析の結果,現在の恐怖心に関連していた項目は初体験時恐怖の有無であった(p<0.0001).複数回答項目であった現在のいやに思う処置内容では,切削音が有意に現在の恐怖心と関連していた(p=0.0003).歯科治療に対し恐怖心を抱かなかった患児が成人後も恐怖心を抱きにくい現象は他にも報告があり,本研究でも同様の傾向が見られた.歯の切削音は小児にとって不快な音だが,本研究では切削音は成人後も歯科治療への恐怖に関与することが明らかとなった.初診時恐怖心を抱く学生は年々漸減傾向であったが有意差は認められなかった.初診時に患児の恐怖・不安要素を排除し安心して治療を行える環境を整備していくことは,成人後の歯科治療に対する恐怖心に大きく影響を及ぼすと考える.
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