インプラント治療において問題となるインプラント周囲炎では、インプラント周囲粘膜の炎症と周囲骨の吸収が起こる。研究代表者は、骨形成促進作用が報告されているポリリン酸が炎症調節作用も有する可能性を見出し、ポリリン酸のインプラント周囲炎治療への応用に注目している。これまでに研究代表者は、細菌由来物質リポポリサッカライド(LPS)により活性化されたマクロファージにおいて、ポリリン酸が細胞内シグナル伝達分子STAT1のリン酸化を抑制し、リン酸化STAT1により促進される炎症関連の遺伝子発現を低下させることを明らかにした。本研究では、ポリリン酸の炎症調節作用をさらに明らかにするために、ポリリン酸がSTAT1以外のSTATに与える影響を検討し、ポリリン酸がLPSによるSTAT3リン酸化を抑制することを見出した。一方、LPSによるSTAT5のリン酸化は、ポリリン酸により促進された。LPSを処置したマクロファージから、インターフェロン(IFN)やインターロイキン(IL)など、STAT経路を活性化するサイトカインの産生・放出を認め、ポリリン酸がこれらサイトカインの作用に影響を与える可能性を検討した。ポリリン酸は、IFN-βによるSTAT1リン酸化を一過性に抑制するのに対し、IL-27によるSTAT1とSTAT3のリン酸化は持続的に抑制することが明らかになった。さらに、LPSにより引き起こされるIL-27の産生・放出もポリリン酸により抑制されることが明らかになった。本研究により、炎症や骨代謝に関わるIL-27に対するポリリン酸の新たな作用が明らかとなった。
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