【目的と方法】 本研究では,理想的な全部床義歯を装着している無歯顎患者100名分のデータを利用して,切歯点の位置の予測し,予測値の精度評価を行った.まず,上下全部床義歯のスキャニングを行い,STLデータを取得し,解剖学的ランドマークの各座標を求めた.100症例のうち,70症例を使用して切歯点のx座標を予測する回帰式を求めるために,各ランドマーク間の距離を用いて重回帰分析を行った.なお,座標は,x軸を義歯の前後方向,y軸を上下方向,z軸を左右方向とした.切歯点のy座標とz座標については,各ランドマーク間の距離からそれぞれ算出し,y座標はHIP平面を利用して算出する方法と顔面計測値を利用して算出する方法の2種類を実施した.z座標は,左右の鈎切痕を結んだ線分の中点の座標を利用した.次に,切歯点の各座標の予測値の精度評価を行った.切歯点のx座標の精度評価は,100症例のうち,残りの30症例を使用して,交差検証を実施した後,RMSEで評価した.y座標とz座標の精度評価には,RMSEを用いた. 【結果と考察】 切歯点のx座標を予測する回帰式のR2値は0.8であった,また,交差検証による精度評価については,RMSEは1.53であった.切歯点のy座標の精度評価については,HIP平面を利用した方法のRMSEは5.15となった.一方,顔面計測を利用した方法のRMSEは0.73であった.切歯点のz座標の精度評価についてはRMSEは2.22であった. 以上より,切歯点のx座標の予測では,回帰式のR2値が0.8であったことから,実測値と予測値には強い相関があると考えられるため,精度の高い予測ができたことが示唆された.また,y座標の予測には顔面計測値を参考する方法の方が精度が高く,z座標の予測には,上顎顎堤のランドマークを利用するよりも,顔貌の正中線を利用する方が精度が高いことが示唆された.
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