研究実績の概要 |
本年度は,顎口腔運動の一つである咀嚼運動が嚥下運動関連の神経回路にどのような影響をもたらすか検証を行った. 対象は健常若年者20名で,嚥下運動関連の神経回路の評価として,咽頭筋の経頭蓋磁気刺激(TMS)誘発性の運動誘発電位(以下MEP)を計測した.このTMS誘発性のMEPの振幅の大きさを,タスク実施前のベースライン,ガム自由咀嚼タスク(咀嚼+嚥下)と1mlの水嚥下タスク(嚥下のみ)実施後で比較した.各タスクは2回ずつ施行し,タスク間は10分間の休息を設けた.統計解析は,各タスク後に得られたMEP波形の振幅を算出し,ベースラインに対する変化率についてタスク(ガム自由咀嚼タスクvs水嚥下)と試行回数(1回目vs2回目)の要因について二元配置反復測定分散分析を行った. 咽頭筋MEPの振幅の変化について二元配置反復測定分散分析を行うと,タスク要因のみ主効果(F1, 19 = 7.769, P = 0.012)が認められ,特に,水嚥下タスク後には増加が認められたが,嚥下回数が同数である咀嚼タスク時には認められなかった.試行回数要因 (F1, 19 = 0.000, P = 0.984),交互作用(F1, 19 = 0.891, P = 0.357)は認められなかった. 過去の行動学的な評価を行った研究から,咽頭筋MEPの振幅の変化は,嚥下惹起に関わる皮質下降性入力の強さを表すと考えられている.本研究結果から咀嚼運動自体が大脳皮質レベルで嚥下運動に関連した下降性入力の増加を制御している可能性が考えられ,これは,咀嚼嚥下時の食塊移送の際に嚥下惹起が抑制される点と関連する可能性が考えられた.本研究結果は,英文誌Physiolgy & Behaviorに投稿,受理された(Magara J et al., Physiol Behav.15;249:113763, 2022).
|