放射線治療(RT)は頭頸部がんに対して高い治療効果を有するが,口腔粘膜炎や口腔乾燥等の有害事象を必発する.特に晩期に発症する顎骨壊死(ORN)は著しくQOLを低下させるにもかかわらず,未だ治療法は確立していない.本研究の目的は,ヒト歯髄幹細胞(DPSCs)由来エクソソーム (EVs)を用いた治療法を開発し,ORNの発症機序を解明することである. ORNの発症機序として,骨髄内の間葉系幹細胞(MSCs)の機能低下が指摘されている.本研究では,最初に放射線照射したラットMSCsの細胞増殖をMTTアッセイで,細胞老化を蛍光免疫染色およびqPCRで評価した.結果,RTはラットMSCsの細胞増殖を抑制し,細胞老化を引き起こした. 次いで,EVsはDPSCsの培養上清から超遠心法により分離した.粒径は約100nmであり,ウエスタンブロット法で特異的表面抗原であるCD63,CD81,CD9を確認した.また透過型電子顕微鏡により形態学的評価を実施した.得られたDPSCs由来EVsと共培養すると,放射線照射したラットMSCsの細胞増殖が促進され,細胞老化が抑制されることが判明した. 動物実験に移行し,作製したラットORNモデルにより検証した.放射線照射直後にDPSCs由来EVsを静脈内投与し,10日後に下顎臼歯を抜歯した.抜歯後3週後に下顎骨を摘出し,抜歯窩の状態を放射線学的および組織学的に評価した.DPSCs由来EVsを投与した抜歯窩は上皮によって閉鎖された.また,抜歯窩内における骨髄の線維化や炎症性細胞の浸潤が減少した.また放射線学的には海面骨の形成が促進され,骨梁比率が増加した. これらの結果より,DPSCs由来EVsはORNを予防できる可能性が示唆された.またその機序のひとつとして,RTによる骨髄細胞の老化がDPSCs由来EVsにより抑制されることが考えられた.
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