研究課題
腫瘍による骨吸収の分子メカニズム明らかにするために、腫瘍細胞が産生するサイトカインと間質線維芽細胞をはじめとする腫瘍微小環境に焦点をあて、破骨細胞活性化因子 RANKLの発現調節機構と破骨細胞活性化機序を検討した。口腔扁平上皮癌による骨浸潤・骨吸収での間質線維芽細胞とRANKL発現を検討するためにマウス骨吸収モデルを作成した。マウス扁平上皮癌細胞株 SCCVIIから二つの亜株を選択し、腫瘍を頭蓋骨に移植するマウスモデルを作成した。その結果、一方の細胞株は著明な破骨細胞形成と骨破壊をきたし、もう一方は破骨細胞形成に乏しく圧迫型の骨吸収と骨形成をきたす異なる臨床で観察される2種類の骨吸収様式を模倣した。この二つの細胞株の遺伝子発現を比較した結果、著しい破骨細胞形成をきたす細胞株のTGF-b発現, IL-6発現, RANKL発現は有意に高かった。TGF-bはIL-6と相加的に間質線維芽細胞株 ST-2細胞のRANKL発現を上昇させた。また、マウスモデルでの破骨細胞形成と骨破壊はTGF-b阻害剤で抑制された。腫瘍による骨破壊・骨吸収にTGF-bを軸とした腫瘍間質相互作用によるRANKL誘導機序があることが示唆された。上記の扁平上皮癌細胞株の二つの亜株のマウスモデルの腫瘍と骨吸収面の微小環境の違いを明らかにする目的で、それぞれの腫瘍と骨の界面組織からRNAを抽出し、RNAシークエンス法を用いて遺伝子発現の違いを網羅的に検討した。
2: おおむね順調に進展している
研究計画の予定通り、腫瘍による骨吸収、骨破壊の違いを検討する方法としてまずマウスモデルの確率ができた。ついで、そのマウスモデルを用いてRNAシークエンス法を用いて骨吸収様式の違いに関連する網羅的な遺伝子発現の差を解析できた。現在、網羅的な解析結果を精査、検証中である。そのため、概ね順調に進展している状況と言える。
同じマウス扁平上皮癌細胞株由来の二つの亜株を同系マウス頭頂部に移植することで、一つは著しい破骨細胞形成による骨吸収と骨破壊をもたらす表現形の細胞株で、もう一方は破骨細胞形成に乏しく骨吸収が少なく、むしろ骨形成をもたらす表現形を持つ。網羅的な遺伝子発現解析によりいくつかのサイトカイン、サイトカイン受容体そして細胞外マトリックスの発現の差が大きいものが表現形をもたらす因子としての候補を挙げている。それらの遺伝子発現、タンパク発現をマウスモデルで確認し、それらのシグナル伝達が間質線維芽細胞やリンパ球のRNAKL発現や破骨細胞形成に影響するかどうかを in vitro で検討する予定である。
所有していた抗体や試薬を活用することで、予定されていた遺伝子発現の網羅的解析を本年度内に実施することができた。網羅的解析を精査し、今後検証する分子シグナルを決定するまで予算執行できなかったため残余が生じた。研究のため研究計画自体には変更がなく、未執行予算は予定通りの研究試薬購入など、次年度の請求額と合わせて使用する予定である。
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