研究実績の概要 |
がんの他臓器への遠隔転移は、がんの発生から複数の過程を経て成立するが、転移の最初のステップは細胞外マトリックスの破壊に始まる。特に、細胞外マトリックスの一形態である基底膜は、がん細胞浸潤の物理的障壁となっている。実際に、近年の報告によって、癌細胞の浸潤・転移などの細胞運動時に、基底膜の細胞間接着様式の一つであるヘミデスモソーム構造の解離や再構築が起きていることが明らかとなってきている。 そこで、本課題では、まず当該年度において、ヘミデスモソームの構成因子のうち、BP180(180 kDa bullous pemphigoid antigen, collagen XVII)の発現制御機構に着目した解析を行った。口腔癌(舌癌、歯肉癌)の組織学的解析において、正常組織では基底膜のみに局在しているBP180が、癌組織では、その辺縁領域に集積していることを見出した。さらに、その局在は、野生型p53の局在と必ずしも一致しておらず、悪性腫瘍細胞に発現しているBP180には、p53非依存的発現制御機構が存在することが示唆された。 また、in vitroでの解析では、ヘテロな口腔癌細胞集団によるスフェロイドを形成し、免疫組織学的染色を行うと、BP180の発現が経時的にスフェロイド辺縁に集まってくることが確認された。特筆すべきは、その染色パターンに、スフェロイド周囲の基底膜成分の有無が影響しなかったことである。すなわち、癌組織におけるBP180は、接着以外の役割をもつ可能性が示唆された。
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