前年度までの研究によって、顎骨壊死の誘因である骨吸収抑制薬ゾレドロン酸(窒素含有ビスホスホネート)は、破骨細胞のp16Ink4aの発現を増加させ、破骨細胞に細胞老化を引き起こすことが分かったが、今年度は骨吸収抑制薬ゾレドロン酸による破骨細胞老化と破骨細胞の骨吸収機能との関係性を解析した。破骨細胞が骨吸収するためには骨表面を酸性にする必要がある。そのために破骨細胞は細胞外に塩酸を排出するが、その排出に必要なのが破骨細胞膜にあるCl-(塩素)トランスポーターである。破骨細胞にはCl-チャネルのうちのClC-7が存在する。今回、新たに電気生理学的手法によってゾレドロン酸が破骨細胞のClC-7によるCl-外向き電流を抑制することが分かった。 今年度は、ゾレドロン酸は破骨細胞のファルネシル二リン酸合成酵素(FDPS)の活性を抑制することが知られているため、ファルネシル二リン酸合成酵素とClC-7との関係を調べると、yeast two-hybrid実験と免疫沈降実験によってファルネシル二リン酸合成酵素とClC-7とが破骨細胞内で結合していることが分かった。そこでFDPSのトランスジェニックマウスを作製すると、トランスジェニックマウスでは破骨細胞のClC-7が活性化しCl-の外向き電流が生じ、骨表面の酸性化による骨吸収活性が亢進し、骨の形態学的解析によって骨密度が低下していることが分かった。 以上のことから骨吸収抑制薬ビスホスホネートは破骨細胞の細胞老化を誘導することによって顎骨のターンオーバーを阻害して顎骨フレイルをもたらすことが考えられた。その機序として破骨細胞のFDPSの発現を抑制しCl-トランスポーター ClC-7の機能を阻害することが考えられた。従って、メバロン酸経路のFDPS下流分子を補充することが高齢者顎骨フレイルの改善法となることが示唆された。
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