免疫学的指定難病であるシェーグレン症候群(SS)唾液腺では、導管細胞からのケモカインCXCL10過剰産生とそのレセプターであるCXCR3+炎症性細胞が集簇し、慢性炎症病態を形成することが明らかになっている。研究代表者は唾液腺細胞株を用いた先行研究で、CXCL10は主にIFN-γ刺激によりJAK/STATシグナルを介して導管細胞から産生され、Tリンパ球のリクルートに関与することを報告した。本研究では、関節リウマチ治療薬であるJAK阻害薬がSS唾液腺の炎症病態を抑制するかを検討した。 SS患者および健常者より採取した口唇腺を用いてJAK1、JAK2、リン酸化JAK1、リン酸化JAK2の発現を免疫組織化学染色法にて検索したところ、SS患者口唇腺においてJAK1、リン酸化JAK1、リン酸化JAK2は導管に強く発現していた。また、JAK2およびリン酸化JAK2は導管周囲の炎症性免疫細胞に強く発現していた。この結果より、JAK1/JAK2阻害がSS唾液腺の炎症病態の抑制に有効である可能性が示唆された。 そこで、JAK1/2選択的阻害薬バリシチニブがヒト唾液腺導管細胞株におけるIFN-γ誘導性CXCL10発現に及ぼす影響をRT-qPCR、ELISAおよびWestern Blot法にて解析した。バリシチニブは導管細胞株においてIFN-γによるSTAT1とSTAT3のリン酸化を抑制し、CXCL10 mRNAおよび蛋白質発現を有意に低下させた。さらにmigration assayの結果、バリシチニブはT細胞の導管細胞への走化性を有意に抑制した。 本研究で、SS唾液腺においてJAK1とJAK2の発現とリン酸化が亢進していることを証明した。そして、JAK1/JAK2阻害薬バリシチニブは唾液腺導管細胞においてIFN-γ誘導性CXCL10発現を抑制し、炎症性免疫細胞のリクルートを抑制することを明らかにした。以上の結果より、バリシチニブのSS新規治療薬としての可能性が示すことができた。
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