研究実績の概要 |
本研究では、細胞の酸化ストレス応答について細胞膜と細胞内小器官、特にミトコンドリアとの関係に焦点を絞って解析を行い、放射線および薬物抵抗性機構を明らかにすることを目的とした。その結果、ミトコンドリアDNA欠失細胞であるρ0細胞において、ミトコンドリア膜脂質に直接働きかけることが知られているリポキシゲナーゼの発現が亢進しており、これを阻害するとストレス感受性がキャンセルされること、細胞膜を模したリポソ-ム膜の脂質酸化度合いを変化させると、活性酸素種の1つである過酸化水素の膜内への移行度合いが変化すること(Tomita et al., Cancer Sci 2019)、ストレス抵抗性であるCRR細胞においては、マイクロRNAのひとつであるmir7-5pが亢進しており、これがミトコンドリア鉄動態を制御するミトフェリンの発現を抑制していること、さらにmir7-5pを抑制すると抵抗性がキャンセルされることを明らかにした(Tomita et al, BBRC 2019)。また、ρ0細胞においては、水と過酸化水素を透過する細胞膜上のチャネルの1つであるアクアポリンの発現が亢進しており、アクアポリンがミトコンドリア機能タンパクであるプロヒビチン発現を介して鉄依存生細胞死であるフェロトーシスに関与すること(Takashi, Tomita et al, FRBM 2020)、CRR細胞で亢進しているmir7-5pもまた鉄動態とROS発生を介したフェロトーシスに関与すること(Tomita et al, IJMS 2021)などを明らかとした。これらの結果より、放射線・薬物抵抗性を制御する膜状態は、ミトコンドリア機能と密接に関与しており、リポキシゲナーゼの発現やミトコンドリア機能制御等を介したフェロトーシス誘導によって、放射線・薬物抵抗性が制御可能であるという重要な知見が得られた。
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