研究課題
Nivolumabの治療効果はCD8陽性T細胞(CTL)の腫瘍内浸潤とPD-L1の発現に依存しており、CPS(Combined Positive Score)が20以上の症例ではPFSが有意に延長された事が報告されている。しかしながら治療奏効例で腫瘍浸潤エフェクターT細胞上のPD-1発現が有意に高かったものの、一部の症例では腫瘍浸潤エフェクターT細胞上のPD-1発現が高いにもかかわらずPD-1/PD-L1阻害剤治療が奏功しなかったため、さらなるバイオマーカー探索をすすめ、口腔がん特異的な網羅的なドライバー遺伝子に着目した。変異解析の結果、p53、CCND1の他に、遺伝子変異の頻度の少ないNOTCH1の遺伝子変異を認めた。NOTCH1の遺伝子変異を認めた症例においては、CD8陽性/PD-L1陽性で、Nivolumab 投与後にpsuedo-progressionを示し、その後の救済化学療法が著効しCR(Complete Response)評価となった。また他のCD8陽性/PD-L1陽性の症例においても、Notchシグナル伝達系の異常を認めた。口腔がん患者の生検検体と治療前の血漿からcDNAを抽出し、次世代シークエンス(NGS)をもちいて全エクソーム解析を行った。化学放射線治療後にPD(Progression disease)評価をした症例で、NOTCH2NLB遺伝子のフレームシフト変異を認めた。以上からNotch経路の異常はCD8+T細胞の発現を制御しているとの仮説を立て検証している。現在、様々な口腔がん細胞株からcDNAを抽出し、Notch1-4遺伝子の発現量についてreal-time PCRによる解析を行っている。Notch 3,4の発現は乏しく、Notch 1,2遺伝子の発現は細胞株によって異なることが明らかにされた。
2: おおむね順調に進展している
NOTCHシグナルの調節とCD8陽性T細胞と抗腫瘍免疫の制御について、細胞株や臨床検体をもちいてNotch変異とがん免疫環境との関連性について評価している。免疫チェックポイント阻害薬における最近の進歩をゲノム解析から明らかにする。免疫系の成分として、CD8+T細胞は腫瘍抑制に重要な役割を果たしているのは間違いない。またCD8+T細胞により産生されるIFNγは、腫瘍細胞によりMHCクラスI抗原の発現を増加させ、それによりCD8+T細胞に対するより良い標的を与える。Notchシグナル調節と抗腫瘍免疫は、CD8+T細胞の活性を調節することから、口腔扁平上皮癌の再発、遠隔転移例に対するNivolumabの適応や予後予測因子となり得るかについて検討している。
口腔がん細胞株のPD-L1の発現、HLAのタイプを同定する。次に口腔がん細胞株に対しreal-time PCRを行い、Notch1,2遺伝子の発現量について健常な口腔粘膜組織細胞株と比較し発現解析を行う。高発現を示した細胞株に対してはγ-Secretase Inhibitor(DAPT)を用い発現を抑制し、発現が抑制されるかをreal-time PCRとウェスタンブロッティングで解析する予定である。さらにNotchシグナルの調節を受ける下流遺伝子の発現についても同様に解析する。臨床検体にてNivolumabが著効しているサンプルからctDNAを抽出し、NGSの解析からNOTCHの変異が消失しているかを検索する。これによりNotchシグナルが正常化された場合、Notch遺伝子変異がネオアンチゲンとならず、新たな遺伝子変異が免疫治療の標的となるかを検証する。
【次年度使用額が生じた理由】実験計画は予定通り進んでいたが、実験結果をまとめて論文作成するまでに至らず、英文校正料や論文投稿料などに充当していた費用を繰り越すこととなったため。【次年度の使用計画】現在の実験結果をまとめ、英文校正料や論文投稿料などに充当する予定である。
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