研究課題/領域番号 |
19K10345
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大井 良之 日本大学, 歯学部, 教授 (60271342)
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研究分担者 |
小林 真之 日本大学, 歯学部, 教授 (00300830)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プロポフォール / マルチチャネルユニット記録 / プロポフォール誘発性アルファ周波数帯 / 同期発火 |
研究実績の概要 |
プロポフォールは全身麻酔において広く使用されている静脈麻酔薬であるが、本薬による意識消失の作用機序は不明な点が多い。プロポフォールの投与による意識消失時の脳波においてアルファ周波が発生することが明らかとなっているが、発生メカニズムについては明らかになっていない。本研究でプロポフォール投与による意識消失時のニューロン活動の変化を検討し、アルファ周波数帯の発生機序の解明をすることが全身麻酔薬による意識消失メカニズムの解明につながると考えられる。そこで本研究ではラット大脳皮質内で複数のニューロン活動を同時記録することが可能なマルチチャネルユニット記録用電極を用いてin vivoで記録を行い、記録ニューロンを発火特性から興奮性および抑制性ニューロンの2種類に分類し、覚醒時からプロポフォールによる麻酔状態への意識状態の変化に伴うニューロンの活動変化を検討した。 同時記録したニューロンから発火同期性を検討するため、①興奮性-抑制性ニューロン②興奮性-興奮性ニューロン③抑制性-抑制性ニューロンの3組についてcross-correlogram(CCG)を作製し、覚醒時と麻酔時のCCGを比較した。①~③において、覚醒時にすでにニューロンの発火同期性が大きいニューロンペアが約25%、覚醒時には発火タイミングが同期していないニューロンペアが約75%であり、両タイプともにプロポフォール投与により発火同期性が有意に増大した。さらに、同時記録したニューロンの距離を、電極のチャネルの距離から算出し、発火同期性とニューロン間の距離の相関の有無を検討した。結果、ニューロンの距離と発火同期性に相関は認められなかった。これらの結果から覚醒時における発火同期性の有無に関わらず、プロポフォールは同期発火を増強させつつ発火頻度を減少させることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラット大脳皮質からマルチチャネルユニット記録用電極を用いてニューロンの細胞外記録をするために必要な、頭部固定装置取り付けおよびラットのトレーニングに関しては2019年度と同様の手技を用いたため、スムーズに前処置が進んだ。また、引き続きマルチチャネルユニット記録用電極を用いてニューロンの記録を行ったため、複数個のニューロンを1回の記録で記録することが可能であった。特に2020年度は興奮性ニューロンと抑制性ニューロンの同時記録を行うことを主な目的に設定し実験を行ったため、32チャネルのマルチチャネルユニット記録用電極の使用が実験効率をあげたと考えられる。しかし、2019年度と同様にラットによっては適正な麻酔深度を得られないことや、早期に麻酔状態から覚醒してしまい、覚醒時→麻酔時→覚醒時と最後まで同一のニューロンの記録ができないことがあった。今後も引き続きニューロンの同時記録を行っていくが、マルチチャネルユニット記録用電極の使用を続けるため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験から、大脳皮質に存在する興奮性ニューロンおよび抑制性ニューロンはプロポフォールの投与により発火同期性を増強しつつ発火頻度が減少することがわかってきた。本研究課題の目的であるプロポフォールによる脳波におけるα周波数帯の発生機序の解明のため、今後も引き続きマルチチャネルユニット記録用電極を用いて、興奮性および抑制性ニューロンの同時記録を行い、各ニューロンごとの発火リズムの解析を行う。さらに脳波に反映されるニューロンの発火頻度の分布を明らかにするため、興奮性ニューロンと抑制性ニューロン各々のinter spike intervalを検証する予定である。 大脳皮質内におけるニューロンの分布には差があり、興奮性ニューロンが約80%、抑制性ニューロンが約20%と考えられている。そのためこれまでの実験においても抑制性ニューロンの記録数は少なく、記録することが難しいことがわかっている。そのため今後のニューロンの活動特性の検討に必要なニューロン数を確保することが引き続き今後の課題となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた北米神経科学会(Washington DC, USA)が開催中止となったため,残金が生じた。特段の計画変更はなく概ね順調に進んでおり、次年度はこれまでに引き続きラット島皮質からマルチチャネルユニット記録用電極を使用し、興奮性ニューロンおよび抑制性ニューロンの細胞外記録を行う。次年度への繰越金は令和3年度の助成金と合わせて,in vivo ラットでのマルチチャネルユニット記録における消耗品費として使用する。
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