研究課題/領域番号 |
19K10346
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
添野 雄一 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (70350139)
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研究分担者 |
辺見 卓男 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (20814883)
田谷 雄二 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (30197587)
柳下 寿郎 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (50256989)
佐藤 かおり 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (90287772)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 口腔癌 / 扁平上皮癌 / 癌微小環境 / 早期悪性病変 / 異型上皮 / 間質応答 |
研究実績の概要 |
口腔粘膜上皮由来の悪性腫瘍(口腔癌)として、舌側縁部に発症する扁平上皮癌(舌癌)が最も多い。舌癌は、上皮層内に停留するものや外向性に膨隆するもの、さらに内向性に浸潤して早期にリンパ節転移をきたすものなど、病態が多彩で予後予測に難渋する場合が多く、病態解明が急務となっている。 我々は、舌側縁部は咬傷などの損傷を受けやすい点、また、損傷の修復過程で上皮下組織(間質)も刺激を受け続けるという点から、組織損傷―修復応答の繰り返しによって、癌細胞の浸潤・転移を容易にする異常な間質環境が構築されるのではないかとの仮説を立て、この異常な間質環境を「異型間質フィールド」と呼ぶこととした。本研究では、癌発生の前段階に相当する舌粘膜病変を用いて異型間質フィールドの実態を明らかにすることを目的としている。 初年度となる今回、異型上皮が成立する初期段階からの形質変化を追跡する目的で、外科切除された舌表在性病変を対象とした発現形質解析を行った。先行実験では、上皮形質マーカーのサイトケラチン(CK13, CK17)と細胞増殖活性マーカーKi-67の発現様式に一定のパターンがあることを突き止めており、今回はさらに上皮幹細胞活性の指標となるBmi-1および細胞と細胞外マトリクスの接着を担う接着分子CD44の発現が連動していることが確かめられた。特にCD44の複数のバリアントアイソフォーム(CD44v5, v6, v7-8, v9)のなかで発現パターンに違いが生じていることも明らかにできた。 今後は、マウス舌粘膜に潰瘍・粘膜炎を繰り返し惹起させる粘膜炎モデルを作出し、血管・リンパ管網、免疫担当細胞などの間質要素の局在と、組織修復過程における形質変化を追跡していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の当初予定として、粘膜炎モデルマウスを作出し、組織修復過程における分子発現動態について組織形態観察と発現遺伝子の探索を計画していたが、実験施設改修の影響を考慮して次年度以降に見送り、ヒト外科手術検体における分子発現解析を先行実施した。 CD44は、腫瘍細胞で発現減弱することにより細胞―基質間、細胞―細胞間の接着が解除され、腫瘍細胞の運動能、浸潤能の亢進に繋がると解釈されていたが、近年では癌幹細胞で高発現することから癌幹細胞マーカーとして注目されている。今回判明したCD44バリアントアイソフォーム(CD44v5, v6, v7-8, v9)の発現パターンの違いは、この相反する所見を説明しうるが、初期病変での事象は多様であるため、引き続き観察事例を増やす必要があると認識している。 Bmi-1に関して、切除断端の上皮を健常“相当”として評価してはいるが、異型変化を生じる前段階でのBmi-1発現亢進を示唆する所見も得られ、初期表在性病変の異型判定に有用と考えられた。同時に、炎症の介在によってBmi-1発現が変動することがわかり、他部位と比べて歯・義歯等との直接接触などの機械的刺激を蒙りやすい舌側縁部での観察に注意を要することもわかった。 今回の作業では、染色態度が安定しないという技術的な課題が浮上したため、免疫染色の精度を高めるための条件検討を優先して行った。血管・リンパ管および免疫担当細胞(ランゲルハンス細胞、樹状細胞、マクロファージ)局在の検索についても特異抗体の選定と染色条件の最適化を進めることができた。同時に検体の収集も進めており、次年度以降での比較解析に向けた作業効率の改善に寄与できたと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から引き続き外科切除検体を用いた異型マーカー発現の検索を進め、検体全域での各種マーカーの陽性領域分布パターンを重ねたマッピング解析を行う。また、実施を延期していた粘膜炎モデルマウスの作出と間質構成細胞の分布、組織構造変化の解析準備を開始する。組織損傷の実験系では、麻酔下にてマウス舌の側縁部を歯科用クレンザーで軽度出血を生じるまで数回擦過し潰瘍を形成する。変異負荷としては、ニトロキノリンあるいはフェニルイミダゾピリジンの継続塗布(約8週間)により機械的刺激では生じない不可逆的な異型変化を誘導する。 上記実験で得た試料を用いて発現変動分子を解析し、形質変化に関わる分子経路を同定する。遺伝子発現プロファイルを得る目的で、病変組織の凍結切片からレーザーマイクロダイセクション法により上皮層部・結合組織部を顕微切断、RNA精製してマイクロアレイ解析を実施する。上皮細胞および各間質要素(血管・リンパ管・線維芽細胞)単独の解析では、特異抗体を付加した磁気ビーズで細胞を単離し、マイクロアレイ解析、ゲノム変異スポット解析に供する。遺伝子発現プロファイルの比較、マイクロアレイデータ検証の目的では、リアルタイムPCRによる発現量の定量解析を行う。 形態解析では、組織損傷反復での血管・リンパ管分布の経時的比較、免疫担当細胞の分布パターン比較および異型上皮誘導下での組織構造比較を行う。また、染色画像はバーチャルスライド装置でデジタル記録し、申請者らの研究グループが確立した画像演算処理システム(RATOC社;TRI-SRF、NIH;ImageJ/FIJIを使用)により組織立体構築を行う。3次元画像を観察に供するとともに、血管・リンパ管の体積密度、幅径、走行(分岐)の変化を形態計測・比較する。
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