研究課題/領域番号 |
19K10357
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
前田 茂 岡山大学, 大学病院, 准教授 (50253000)
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研究分担者 |
樋口 仁 岡山大学, 大学病院, 講師 (30423320)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オピオイド受容体 / マイクログリア / 中枢神経系 / interleukin-6 |
研究実績の概要 |
2020年度はマウスミクログリア由来のMG6という培養細胞を用いて研究を行った。MG6は高濃度グルコースのDMEMにインスリンとmercaptoethanolを添加した培地で培養した。培養液のMG6をlipopolysaccharide(LPS)で刺激すると炎症反応としてIL-6の分泌が増加する。それに対して,オピオイドδ受容体特異的作動薬であるSNC80を作用させた。SNC80は1規定の塩酸で溶解したものをDMSOで希釈してストック溶液とし,それを用いて濃度勾配を作った。その結果SNC80は,MG6において濃度依存的にLPSに対するIL-6の分泌を抑制した。SNC80の作用がオピオイドδ受容体に特異的であることを確認するために,オピオイドδ受容体特異的拮抗薬であるNaltrindoleとBD1008を用いて,SNC80の作用を検証した。Naltrindoleは濃度依存的にSNC80の効果を増強した。BD1008もNaltrindoleと同様に濃度依存的にSNC80の効果を増強する傾向を示した。次に,SNC80の作用と細胞内シグナル伝達との関係を調べるために,MAPKKのMEKの阻害役であるPD58059およびホスファチジルイノシトール3-キナーゼ阻害薬であるWortmanninを作用させた。その結果,PD58059はLPSによる炎症反応と,SNC80の抗炎症効果に対する作用は認めなかった。WortmanninはLPSによる炎症反応に対しては抑制的な効果を認めたが,SNC80の抗炎症効果に対する作用は認めなかった。本研究から,中枢神経系においてオピオイドδ受容体のアゴニストとアンタゴニストにいずれにおいても,抗炎症作用が示され,しかもその作用は互いに増強することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度の当初はCOVID-19により研究活動が停止しており,また大学院生の研究活動が制限された。また2021年4月からの転勤のため年度の後半はその準備に時間を要してしまった。さらに後半は岡山大学の改修工事が開始され,実験の環境が著しく変化してしまったことの影響も大きかった。動物実験も行う予定であったが,細胞に比べてさらに時間や人出を必要とするため,上記の理由で動物実験を遂行することができなかった。しかし,そのような環境においても,少しでも研究が進んだことは次年度の新しい環境において研究を始めるためには,有意義であったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
新しい研究室では研究環境が不十分であり,早急に整備を進める必要があるが,まず細胞を用いた実験を再開するために,他の研究費も合わせて整備を進める。次に2020年に行った実験の再現を行い,結果として確定する。次に当初の予定であった動物実験に取り掛かる。動物実験は動物実験施設があり,早急に施設使用のための教育訓練を受け,実施に向けて準備を行う。動物実験のための物品は持参しており,動物に対する処置は直ちに実施することができる。組織染色には施設内外の研究者の協力を仰ぎ,当施設では組織の取り出しと固定までを実施する予定である。それにより染色の工程の負担を減らし,研究を遂行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は動物実験の結果に対して,その機序を培養細胞を用いて調べるという計画である。しかし,すでに述べたように,COVID-19の影響,2021年度からの転勤,および岡山大学での改修工事の影響で,研究は当初の予定よりは遅れており,その結果として当初予定していた動物実験が2020年度はできていない。そこで,次年度使用額として割り振られた予算は,動物実験を行うための研究経費とする。動物実験では用いる試薬の量が培養細胞に比べて,多量になるため2021年度に割り振った使用額はそれで使い切ることができる。 また前年度はELISAを中心に研究を行なったが,当初の予定ではウエスタンブロットにより細胞内シグナル伝達の機序を調べることとしているため,前年度までにできなかったことを追加して今年度は研究を進める予定である。
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