研究実績の概要 |
研究代表者はこれまでに動物および細胞を使って,周術期脳虚血モデルを作成してそれに対する麻酔薬の効果を調べてきたが,本研究ではそれに対するオピオイドδ受容体の作用を調べることが目的であった。今年度は主に細胞を使った脳虚血モデルを作成し,それに対するオピオイドδ受容体の作用を調べた。 細胞はラットアストログリア由来のC6とヒトニューロブラストーマ由来のSH-SY5Yを用いて,それぞれを嫌気環境下でlipopolysaccharide (LPS)を作用させ,それに対するオピオイドδ受容体作動薬のSNC-80およびオピオイドδ受容体の拮抗薬であるNaltrindoleの効果を調べた。嫌気環境はアネロパック(スギヤマゲン,東京)と細胞培養シャーレを密封した容器または密封した袋に入れることで作った。LPSは5ng/mlという非常に低い濃度で培地に添加した。8時間の反応の後,細胞からtotal RNAを抽出し,濃度を測定した後に逆転写酵素を用いてcDNAライブラリーを作成した。作成したcDNAをサンプルとして,各種サイトカイン, COX2, についてリアルタイムPCRを行うことによって細胞回収時のそれぞれのサイトカインのmRNA量の変化量を内部標準のbeta-actinとの比較を介することによって求めた。 その結果,嫌気環境では好気環境に比べて,各種サイトカインmRNAレベルが上昇することがわかった。LPSは非常に微量であったためLPSによるサイトカインmRNAレベルの上昇は軽微であったが,嫌気環境とLPSの組み合わせにより,炎症反応が増強される傾向が認められた。オピオイドδ受容体の作動薬であるSNC-80および拮抗薬であるNaltrindoleはいずれも各種サイトカインmRNAレベルを上昇させた。このことは想定していなかった結果であり,今後様々な条件を変えて検証していく予定である。
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