研究課題
多くの癌種において、癌細胞のT細胞抑制性リガンド PD-L1(programmed cell death 1)の発現が高いと患者の生命予後が不良であることが報告されている。これは免疫細胞と癌細胞とのPD-1/PD-L1免疫チェックポイントシグナルによる免疫抑制機構によるものと考えられているが、癌幹細胞周囲の微小環境(癌幹細胞ニッチ)においても同様な機構が働いている可能性が考えられる。本研究において、口腔癌幹細胞ニッチにおける免疫抑制機構について検討するために、口腔癌幹細胞の細胞特性を有するCD133陽性細胞におけるPD-L1発現動態など基礎的解析を行い、以下の実験を行った。当科にて無血清培養下、樹立継代している3種類の扁平上皮癌細胞株からヨウ化プロピジウム(PI)を用いて死細胞を除去後、FACS を用いてCD133陽性細胞と陰性細胞に分離し、その比率を確認したところ、NA細胞では0.63%、UE細胞では0.51%、A431細胞は0.28%のCD133陽性細胞を分離可能であった。さらに、分離したCD133陽性細胞における免疫調節因子(PD-1、PD-L1、PD-L2)ならびに未分化細胞マーカー(Oct、Nanog、Sox2、Rex1)、接着分子マーカー(N-Cadherin、E-Cadherin)、上皮間葉転換を制御する転写因子(Snail、Slug、Twist)遺伝子発現についてRT-PCR法にて解析した。その結果、CD133陽性細胞において、免疫調節因子(PD-1、PD-L1、PD-L2)の遺伝子発現はみられなかったが、E-Cadherinならびに未分化細胞マーカーであるOct遺伝子とTwist遺伝子発現を認めた。口腔癌幹細胞的な性格を有するCD133陽性細胞は、正常幹細胞と同様な自己複製機構と上皮間葉転換に関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
口腔癌幹細胞ニッチにおける免疫抑制機構について検討するために、無血清培養下で継代維持している口腔癌細胞株から、口腔癌幹細胞の細胞特性を有するCD133陽性細胞の分離に成功し、遺伝子発現を解析することができた。扁平上皮癌細胞株からCD133陽性細胞を分離することにより非常に少数の細胞数になるため、CD133陽性細胞を標的とした細胞障害活性試験など細胞性免疫について検討することが困難であった。研究をさらに進めていくために口腔癌幹細胞の性質を有する他の細胞株で検討する必要がある。
以上の結果をふまえて、当科において口腔癌幹細胞の細胞特性を有する放射線耐性口腔癌細胞株の樹立に成功しているので、今後、同細胞を標的とした細胞障害活性試験を行うとともに、無血清培養下で継代維持している放射線耐性口腔癌細胞株に影響を与える因子を明らかにする。
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日本口腔科学会雑誌
巻: 68 ページ: 12-19
巻: 68 ページ: 20-27
巻: 68 ページ: 294-298