研究課題
本研究は、休眠癌細胞の特性を理解し、転移・再発のメカニズムの解明と治療法の開発を目的として開始した。マウス担癌モデルで遠隔臓器において休眠を示す、ヒト頭頚部扁平上皮癌(HNSCC)細胞株をDNAバーコーディング法にて追跡した。マウスに移植して1ヵ月後に、移植部位や骨髄、肺、末梢血からゲノムDNAを採取し、次世代シーケンサーによって各部位におけるバーコード配列を網羅的に解読した。その結果、循環腫瘍細胞(CTC)で多くを占めるクローンが骨髄や肺の播種癌細胞(DTC)を占拠していることがわかった。これらのクローンはいずれも移植腫瘍内では稀な集団であった。さらに、我々はCTCと骨髄・肺のDTCを占拠するクローンXを得ることに成功した。クローンXは静止環境下では目立った性質を示さなかったが、循環血中を模倣した流体剪断応力(fluid shear stress: FSS)存在環境下では、他のクローンや母集団とは対照的に、アノイキス耐性を示す安定なホモティピッククラスターを形成・維持することが判明した。不均一な集団内においても、このクローンXはほぼモノクローナルなCTCクラスターを形成した。このようなFSS下でのクラスター維持には、Eカドヘリンと、クラスター内の個々の細胞におけるアクトミオシンによるコルチカルテンション制御が必要であることが示唆された。RNAシーケンスの結果、クローンXはEカドヘリン結合タンパク質(EBP)をコードする遺伝子群を高発現しており、その多くはアクチン結合蛋白質であった。TCGAデータベース解析の結果、ヒトHNSCC原発巣におけるこれらEBPの高発現は、局所・遠隔臓器での再発と有意に関連していた。以上より、高度機械刺激感受性クローンがCTCクラスター形成を介してDTCを占拠することが考えられた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた、静止期癌細胞株の特性解析に比べ、休眠癌マウスモデルでの検討が予想以上の進展を見せた。得られた知見から、高度機械刺激感受性クローンが休眠DTCとして潜伏している可能性が示された。静止期癌細胞株を基軸とした解析は遅れをとっているものの、結果的には、静止期癌細胞の特性の解明に大きく寄与し得る知見が得られたものと考えている。
当初の研究計画をわずかに修正し、以下のように研究を進める。進捗状況を踏まえ、来年度以降は、休眠癌マウスモデルとバーコード解析の検討から得られた知見を基盤として、詳細な機能解析を進める。主に、同定した高度機械刺激感受性クローンについて、その細胞特性を支える分子基盤を詳細に解析する。また、遠隔臓器において、DTCの機械刺激感受性がいかに静止状態や増殖に関与しているかについても、合わせて検討する。一方、当初予定していた静止期癌細胞株の樹立・解析については、一定のエフォートをさいて解析を続ける予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件)
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