研究実績の概要 |
肥満者の術後痛増強・遷延化のメカニズム解明を目的として,肥満ラット術後痛モデルを作成し検討を行ってきた.昨年から,足底皮膚ー後脛骨神経標本を用いた単一神経記録により、Brennan手術を施した肥満ラットとコントロールラットの一次神経終末の侵害受容感作がどのように異なるかを電気生理学的に検討してきた.解析の結果,肥満ラットの一次求心性線維の活動電位を誘発する機械閾値に有意差はなかった.また段階的機械刺激に対する反応性は肥満群でやや増加する傾向にあったが,有意差は見られなかった.そこで,末梢および中枢における未知の分子生物学的メカニズムを探索するために,術後痛モデルにおける脊髄および脊髄後根神経節(DRG)のトランスクリプトーム解析を行い,肥満群とコントロール群を比較した.脊髄では約30000種類の遺伝子発現が確認でき,そのうち2群間で発現に有意差のあった遺伝子は293個あった.しかし発現量の変化は2倍以下であることから,脊髄の術後痛修飾への関与は小さいと思われた.一方,DRGでも30000種類以上の遺伝子発現を確認し,そのうち発現に有意差があった遺伝子は19個であった.これらの遺伝子のパスウェイ解析から,Fkbp5遺伝子,Zbtb16遺伝子,Tnc遺伝子などの遺伝子が内分泌疾患や脂質代謝を引き起こす原因遺伝子となることが示唆された.これらのいくつかが,肥満における術後痛の増強や遷延の原因遺伝子の一部であるかも知れない.今後,阻害薬などを用いてさらに検討して行く予定である.
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