研究課題/領域番号 |
19K10386
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 浩 九州大学, 歯学研究院, 助教 (00421313)
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研究分担者 |
加藤 大樹 九州大学, 歯学研究院, 助教 (30452709)
増田 啓次 九州大学, 大学病院, 講師 (60392122)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クラインフェルター症候群 / 染色体異常 / 歯髄肝細胞 / 発達障害 / 神経分化 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
X染色体を複数持つ男性に発症するクラインフェルター症候群は、最も頻度の高い性染色体異常で精巣萎縮などの生殖不全に加えて、発達障害が見られる。本研究の目的はクラインフェルター症候群患者の細胞を用いて、X染色体過剰により引き起こされる神経細胞の形態や分子生物学的異常を解析し、発達障害の発症機序を解明することである。 本年度は発達障害の症状を持つ患児より得た乳歯を用いて、ヒト脱落歯髄幹細胞(SHED)の分離を行った。分離されたクラインフェルター患者のSHED(KS-SHED)は、FISH解析によって2本のX染色体と1本のY 染色体を保持していることが示された。KS-SHEDは形態的及び細胞の増殖において、健常児より分離されたSHED(ctrl-SHED)と比較して有意な差異は認められなかった。 次にこれらのSHEDをドーパミン作動性ニューロン(DN)へと分化誘導を行ったところ、軸索の長さや分岐の数の顕著な変化は示されなかった。一方でDNへの分化状態を示すマーカーであるMAP2やβ-tubulin III、Nurr1といった遺伝子の発現はKSにおけるDNにおいて減少していた。このことから、クラインフェルター症候群の神経においては形態的な変化以上に分化成熟の異常が起こることが考えられる。 次に、神経分化に係るミトコンドリア活性の解析を行った。ミトコンドリアにおけるATP合成に必要な膜電位の計測により、KS-SHEDにおいてctrl-SHEDと比較して有意に減少していることが示された。また、神経への分化誘導を行うとミトコンドリアタンパク質が増加することが知られているが、ウエスタンブロット解析によりこのタンパク質の増加はKS-DNにおいて抑えられることが示された。このことからミトコンドリアのタンパク質の減少により、ミトコンドリアの活性が低下していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究の申請計画に沿って研究が進んでおり、クラインフェルター患児からのSHEDの分離もできている。さらに、その染色体型や特徴解析といった解析も進んでおり、研究材料として使用できることも確認された。今後も研究計画に沿って研究を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の推進について、当初の計画に準じて行っている。今後はまずクラインフェルター患児由来のSHEDの数を増やすことが重要である。それと並行して、申請に示したように余剰なX染色体を除くことによる、修復されたSHEDの構築を進める。基本の分子生物学的なシステム自体はすでにHeLa細胞において21番染色体除去に使用しているシステムであり、さらにクラインフェルターのX染色体除去用に改変を行っている。後はKS-SHEDへの応用だけとなっておるが、SHEDの遺伝子編集細胞の分裂の停止が問題となっている。今後、テロメラーゼの発現等を使った細胞の不死化も視野に入れて研究を進めていく予定である。また、分化神経細胞の機能解析やX染色体が増えることにより発現の増加するX染色体上の遺伝子の影響の解析、遺伝子操作や薬剤等による神経異常の修復の有無を解析し、クラインフェルター症候群における発達障害の病態解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、学会参加のための旅費が発生しなかったとことと、分担者への分担金がなかったために次年度使用額が生じた。これらは次年度において研究遂行のため分担者への分担金や物品購入に使用する。
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