研究課題
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、ニューロン発達やシナプス形成など脳の発達異常が原因である。しかし、生きたヒトの脳を対象とした詳細な解析は、検体採取と研究手法の制限により進んでいない。本研究の目的は、ASDの発症機序として酸化ストレスとミトコンドリア機能との関連性を明らかにすることである。材料は、申請者らが九州大学病院での歯科診療業務の一環として、ASD児および定型発達児(健常コントロール)から提供を受けたヒト脱落乳歯由来幹細胞(SHED)を用いる。SHEDは、ニューロンへ効率的に分化誘導できるため病態解明を目的としたヒト細胞モデルとして有用である。本研究では、自閉症児の神経発達における酸化ストレス障害とミトコンドリア障害との関連性について、ASD児由来SHEDを細胞モデルとして解析する。2020 年度は、ASD児由来SHEDから分化したドーパミン作動性ニューロン(DN)では、ROSレベルが有意に上昇することを見出した。現在、ROSレベル上昇の要因として、各種の抗酸化酵素の発現レベルを解析している。さらに、培養系に抗酸化作用またはミトコンドリア活性化作用を示す試薬を添加し、その効果を評価中である。現時点で、特定の条件下で葉酸の有効性を示唆する結果が得られている。
2: おおむね順調に進展している
ASD児・定型発達児からの乳歯歯髄の継続的提供、SHEDの培養、DNへの分化誘導、ROSの測定、ミトコンドリア活性の測定に必要な実験系は確立できている。ASD児由来DNのROS産生の上昇データに基づき、酸化ストレス高感受性の要因について、内因性抗酸化酵素と抗酸化物質の発現レベルを解析中である。さらに、外因性抗酸化試薬として葉酸の効果検証を進める予定である。
ASD児由来細胞の酸化ストレス高感受性の要因について、内因性抗酸化酵素と抗酸化物質の発現レベルを解析中である。さらに、外因性抗酸化試薬として葉酸の効果検証を進める予定である。本研究計画立案時に、自閉症児の不均一な遺伝背景のため、自閉症グループ間のバラツキや定型発達児との有意差が不明確になる可能性、および細胞生物学的な差が検出された場合でも、その原因を分子生物学的に特定できない可能性を想定した。現在、単一遺伝子性の神経発達障害であり、自閉症様症状を特徴とするレット症候群患児由来の歯髄幹細胞(MeCP2の遺伝的欠損細胞)を代替モデルとして解析するための準備が完了している。
細胞培養器具、培養試薬類、および分子生物学解析試薬の購入予定費に余剰が生じた。次年度におけるこららの試薬購入費に充てる予定である。
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Biochem Biophys Rep.
巻: 26 ページ: 00
10.1016/j.bbrep.2021.100968
Int J Mol Sci.
巻: 22 ページ: 00
10.3390/ijms22052269