研究課題
本研究では、ASDの神経発達障害機序に酸化ストレスとミトコンドリア機能不全が寄与することを細胞生物学的に明らかにする。材料は、ASD児から提供を受けたヒト脱落乳歯由来幹細胞(SHED)をドーパミン作動性ニューロン(DN)に分化誘導し、ASDの神経病態モデル細胞として用いる。定型発達児由来DNをコントロールとした。2021年度は、ASD児由来SHEDから分化したDNの酸化ストレス上昇に関与する因子の同定を進めるとともに、ダウン症候群(DS)の患児由来SHEDから分化したDNを代替モデルとして解析した。ASDは、複数の遺伝要因と環境要因が病態形成に関与する多因子疾患である。異なる患児の病態に共通する遺伝要因を同定することは容易でない。一方、DSは遺伝要因が明確であり、自閉症様の症状を合併する頻度も高い。したがって、ASDとDSは、神経発達障害の特定の病態を共有していると考えられる。その代表として、酸化ストレスの上昇とミトコンドリア機能不全がある。DSの患児由来SHEDから分化したDN(DS-DN)は、細胞内ドーパミン蓄積に起因する活性酸素種の上昇を示した。DS-DNでは、ドーパミンの細胞内取り込みに関与するDAT1の発現亢進もみられた。DAT1の発現亢進の要因として、非標準的NotchリガンドであるDLK1が同定された。DS-DN は、PGC-1αを介したミトコンドリア生合成が低下しており、これは活性酸素種の上昇と関連する可能性が考えられた。これらの結果から、ドーパミンの恒常性の調節不全が、DSにおけるドーパミン作動性システムの酸化ストレスおよびミトコンドリア機能障害に寄与すると結論づけられた。この成果は、FASEB BioAdvancesに受理された。この知見をもとに、ASDの神経発達障害における酸化ストレスとミトコンドリア機能との関連性の解析を継続する予定である。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
FASEB BioAdvances
巻: - ページ: -
10.1096/fba.2021-00086