口唇裂・口蓋裂は、500から600人に1人と高頻度に認められる先天異常疾患である。遺伝的要因と環境要因との相互作用によって発症する多因子疾患であるが、発症メカニズムは未だ不明な点が多い。近年、エピジェネティックな変化が疾患の発症要因になっていることが報告されているが、口唇裂。口蓋裂をはじめとした顎顔面領域における先天異常疾患とエピジェネティックな変化との関連についての報告は少ない。本研究は、神経堤細胞にのみヒストンメチル化酵素Setdb1をノックアウトさせ、口蓋裂を発症させたマウスを実験モデル(以下Setdb1 CKO)として用い、口蓋におけるSETDB1を中心としたエピジェネティックな遺伝子制御メカニズムついて検討することを目的とした。 明らかになった点は、1)Setdb1 CKOは口蓋裂およびメッケル軟骨の肥大化を認めた。2)Setdb1 CKOの増殖能は、口蓋では減少、メッケル軟骨では増加し、組織によって増殖能への反応が異なっていた。3)Setdb1 CKOのメッケル軟骨においてAktの上昇によるPTHrPレセプターの上昇を認めた。4)Setdb1 CKO マウスでは Pax9、Bmp4、Bmpr1a、Wnt5a、Fgf10 の発現がmRNAレベルで顕著に減少していた。5)Setdb1 CKO マウスではSMAD 依存性の BMP シグナルは有意に減少した。 以上のことより、神経堤細胞におけるSETDB1によるエピジェネティクス機構が口蓋およびメッケル軟骨の発生に大きく関与している可能性が示唆された。本研究内容を国際誌(2編)にて発表した。
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