研究課題/領域番号 |
19K10411
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研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
佐々木 会 明海大学, 歯学部, 講師 (60580230)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 歯牙移動 / 痛み / 歯骨細胞 |
研究実績の概要 |
本モデルでは、上顎両側第一臼歯部歯肉に電気刺激を加え、開口反射を誘発する閾値を左右で比較することで疼痛を評価することが可能で、閾値は装置装着後1日目では右側が有意に低く、3日目でほぼ左右差が消滅し、7日目には左右差が反転するという結果を得ている。成熟破骨細胞数は1日から7日目にかけ増加し、歯の移動量も同様に7日目で最大移動量を示すことも過去に報告した。これらは、臨床的に認められる矯正力負荷後の疼痛レベルの経時的変化や関連痛の有無などを反映しており、動物モデルに求められるface validity(表現型類似の妥当性)、constructive validity(病因性類似の妥当性)の要件を証明したと考える。動物モデルに求められる要件の最後の一つであるpredictive validity(既存治療薬への応答性の類似)に関しては、アスピリン投与は、濃度依存的に有意に開咬反射閾値を回復させるがアセトアミノフェンは奏効しないことから証明がなされた。歯の移動に不可欠な破骨細胞由来の酸刺激に着目し、TRPV1拮抗薬の投与が開口反射閾値に及ぼす影響を検討した。TRPV1拮抗薬の全身投与は、歯の移動に伴う疼痛を制御することが可能であるが、炎症性サイトカインの発現抑制がアスピリンよりも著しいことが確認された。また、同実験モデルを用いて、疼痛緩和の代替療法で使用されるlow level laser therapy(LLLT)が歯の移動に伴う疼痛の制御に有効で、その急性作用にもTRPV1拮抗が関与することも明らかになった(Tsuchiya et al. Front Neurol. 2020 doi: 10.3389)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点では、研究はおおむね順調に進行している。英文校正、論文投稿料等の使用は予定通りであった。コロナの影響により学会参加などにかかる経費がかからなかったため、今年度への延期を申請した。
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今後の研究の推進方策 |
TRPV1拮抗薬(AMG9810、A-889425)の歯肉構内局所投与の、鎮痛効果と好ましくない副作用(発熱など)の発現に関して、共同研究者の湯川未郷が研究を行っている。その投与レシピに加えて、P2X2/3受容体(Adachi et al. Mol. Pain 2010)やP2Y12受容体の拮抗薬の併用効果検討する。また、TRPV4は破骨細胞分化に関与する事から、我々のモデルでもその効果を検討する。これにより、TRPV1等の拮抗で鎮痛が得られ、TRPV4の賦活化で骨吸収が促進することが確認出来れば、臨床において治療環境の改善と治療期間の短縮を同時に果たせることになる。「LLLTと薬物の併用」:LLLTの効果を、上記の薬物併用で増強できないかを検討する。特に半導体レーザーでは有効な結果がCO2レーザーと比較して得られていないため、その点を確認する。「歯の移動量」:実験前後の上顎精密印象採得から模型を用いて矯正歯の移動量を精密に二重盲験法で測定する。「破骨細胞浸潤」:矯正歯周囲の切片を作成しTRAP染色によって、多核破骨細胞の数を計測する。「三叉神経節活性」:両側三叉神経節を摘出し、切片を作成しGFAP免疫染色をおこなう。レーザー顕微鏡でGFAP陽性サテライトグリア細胞に包囲された神経細胞数を計測する。「炎症性サイトカイン量」:矯正歯ならびにその対称歯の歯根膜を摘出し、Western blot法で炎症性サイトカイン量の変化を解析する。特に先行研究で変動が大きい事を確認しているCINC-2から検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究はおおむね順調に進行しているものの、学会参加にかかると予定していた経費がコロナの影響によりかからなかったため、今年度に延期を申請した。
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