研究実績の概要 |
顎矯正手術を伴う骨格性下顎前突症患者は, 術前矯正治療時にdental compensation改善のため下顎前歯を唇側傾斜させる事が多い. しかしながら, これらの症例の下顎symphysisは菲薄な場合が多々あり, 下顎前歯の移動の制約を受ける. 本研究では, 矯正治療計画立案時(以下, T1)および術前矯正治療終了時(以下, T2)のCBCTデータを用いて, 歯槽骨頂の位置の変化と下顎symphysisの形態変化を計測し関連する因子を解明した. さらに三次元有限要素解析を用いて, 下顎前歯に矯正力をかけた際の下顎symphysisへの力の波及を解析し, 骨の力学的挙動を検証することを目的とした. 対象は, T1およびT2において, CBCTの撮影を行った骨格性下顎前突症(ANB<0°)患者45名とした. 計測部位の角度計測は, T1のFMA, ANB, Gonial Angle, Y軸角, IMPAとT2のIMPAの6項目とした. 距離計測はT1とT2の唇側と舌側それぞれのCEJから歯槽骨頂までの距離, 下顎symphysisの唇舌的な幅径, T1とT2のCBCTデータを下顎骨で重ね合わせ, 唇側と舌側の皮質骨のそれぞれの変化量を計測した. 計測の結果, 歯の移動に伴う歯根周囲の骨の形態変化が明らかとなり, FMA, IMPAの変化量, 治療期間, ANBの4つの因子が形態変化に影響を及ぼすことが示唆された. また, 下顎symphysisの基底部付近までは矯正力に伴う骨形態の変化が認められず, 三次元有限要素解析を用いた力学解析も同様の結果を得た. 以上より, 外科的矯正治療における骨形態変化は下顎symphysis全体には及ばず, 歯根周囲に限局していることが示唆された.
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