研究課題/領域番号 |
19K10417
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
玉置 幸雄 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (40369046)
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研究分担者 |
堀尾 恵一 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 教授 (70363413)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | AI / 自己組織化マップ / 顎顔面形態 / 骨格性下顎前突 / 診断支援システム |
研究実績の概要 |
研究成果の一部を論文化し、下記内容で投稿した。 目的: 本研究は,少数の長期経過観察中の骨格性交叉咬合患者を対象に,機械学習による分類で顎顔面形態パターンを生成する. 方法: 機械学習データは、上顎前突装置除去後7年間経過観察した患者12名(平均7.5歳)のセファロ測定点からなる。これらのセファログラムのDICOM画像を用いて、頭蓋顎顔面領域の73点の測定点をデジタル化した。これらの点のx-y値は、頭蓋底のS点を原点として数学的に変換された(x = 0, y = 0)。0.1mmステップごとに±0.5mmから±1.5mmの測定誤差範囲内で、120の仮想症例の座標値のベクトルデータ(E0.5からE1.5まで)を11セット作成した。これを機械学習(SOM)で5万回学習させ、地図の単位(3×3)上に顎顔面パターンを生成した。これらの仮想パターンを用いて、120個のベクトルをマップ上で分類し、その分布を比較して、仮想パターン生成における最適な誤差を決定した。 具体的な結果: SOM学習により、すべてのデータセットについて、マップ上に重みベクトルが生成された。各セットからユニットへの120の割り当ては、0から50の範囲であった。しかし、いくつかのユニットでは、0、5、または50の仮想ケースの分布があった。E0.8セットでは、最も均等な分布であった。E0.8セットのSOM結果の重ね合わせでは、9ユニット中8ユニットで下顎前突の顎顔面形態が目視で確認された。E0.8セットでは、セファロ標準と比較すると、8ユニットで骨格性下顎前突症の特徴が確認されたが、1ユニットでは偽パターンとしてベクトルが分布していなかった。 結論と今後の意義: 以上の結果から,測定点に±0.8mmの乱数を付加した仮想症例を生成することは,長期治療例などのセファログラムの診断支援のための機械学習に有用であることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果の一部を論文化することができた。当初の予定では、骨格性反対咬合のセファログラムと口腔模型のデジタル計測データの両方を使用する予定であったが、模型計測のデータを混ぜて機械学習の入力ベクトル(患者情報)とした場合内、AI学習のノイズになる場合が多かったため、セファログラムのみのデータを用いることとした。また、セファログラムの計測点の誤差を僅かに加えることにより、AIの学習結果が局所的な最適解を得てしまう可能性を排除する技術を考案した。これにより、診断用の仮想症例としてある程度のパターン化が可能にとなったため、その一部を論文化することができた。 予期しないこととしては、模型の計測データを入れてAIの学習データを生成した場合、臨床的に観察されるパターンが得られず、歯の萌出パターンや歯の位置に相当なバリエーションがあることからAIのパターン学習の障害となってしまったことがあげられる。これについては今後の検討課題とし、まずはセファログラムのデータのみで効率よいパターン生成を行い、診断支援システムの構築を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上顎前突の症例を取集し、現在までに構築した方法と同じ処理を行う予定としている。これにより、下顎前突と上顎前突の初診時の診断支援がAIで可能になる。成長期に矯正治療が必要な不正咬合のうち、叢生を除き、上顎前突と下顎前突の占める割合は大きいため、今回収集している下顎前突に加え、上顎前突のデータも加えれば、より多くの症例を判断できる診断支援システムを構築可能となる。また、上顎前突と下顎前突の中間形態をバーチャルに生成することも可能になってくるため、上顎前突・下顎前突におけるパターンを用いた誤診を減らせる可能性もある。 今後の研究の推進方法 1.下顎前突(反対咬合)パターンのバーチャルパターンの生成(10~20個前後を想定)、2.各バーチャルパターンを用いた初診時反対咬合の分類と実際の治療結果の紐づけ(アノテーション)、3.検証用ケースでの治療結果予測と正診率・誤診率の算出、4.上顎前突用データの収集 AIを用いた診断システムには発展の可能性があるものの、紐づけ用データの質が問題である。昨近のインターネット等を用いた大規模データ収集には質的な限界もある。従って、大学病院での治療結果をAIのトレーニングデータにした意義が今後求められる可能性があることから、本研究ではそのようなことも視野に入れ研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で海外出張の制限が多く、予想よりも旅費が少なかったため。
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