研究実績の概要 |
本研究は,これまでの我々の研究成果を基礎として,ヒトを対象とした生理学的研究アプローチに従い,1)食道への異なる末梢刺激および体幹角度が嚥下運動へ与える影響,2)加齢や疾患が食道刺激で起こる嚥下運動に与える影響を明らかにすることを具体的な研究目標としていた。 初年度は目標を達成するため,食道への異なる末梢刺激(刺激液体の温度)および体幹角度が嚥下運動へ与える影響を検索した。その結果,60度, 30度のいずれかで,1℃の冷水を上部食道に注入した際に,嚥下反射が最も誘発されやすいことが示唆された。2年目は,異なる末梢刺激として化学刺激の違いが嚥下反射誘発に及ぼす影響を検討したところ,カプサイシン溶液,塩酸,酢酸注入時は炭酸水,蒸留水と比較して食道刺激から嚥下反射惹起までの潜時が短縮していた(p<0.01)。 最終年度は,脳血管障害を既往に持つ嚥下障害者33名を対象として1℃にコントロールされた5 ml,10mlのとろみ水を5ml/sの速度で注入し,それぞれ注入から舌骨移動開始までの時間:潜時を嚥下造影検査より算出し,脳血管障害の部位,注入量で潜時を比較した。その結果,嚥下反射が15秒以内に誘発されたのは,5 ml注入時は74%(25 / 33名),10ml注入時は88%(29 / 33名)であった。嚥下反射が誘発されないケースは脳血管障害の部位として視床(4名),視床+被殻(2名)の脳出血,脳幹(2名)の脳梗塞の既往を有していた。本研究結果より,脳血管障害を既往に持つ患者でも食道刺激によって嚥下反射が誘発されることが明らかとなった一方で,後遺症として感覚障害を既往に持つ者は嚥下反射が誘発されにくい可能性が示唆された。 今後は本手法の注入量,注入液を変化させることでより嚥下反射が誘発されやすい条件を検索し臨床応用を目指すとともに,嚥下反射惹起の評価法として応用する予定である。
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