本研究では,歯科技工士の社会実態を数量的に評価するために,歯科技工等の需要・供給に関する分析を行う.最終年度(2022年度)は,大きく以下2点の分析を行った. 1)歯科医療サービスの需要について,医療費の面から分析した.方法は,社会医療診療行為別統計等のデータ(2000~2019年)を用いて,①歯冠修復・欠損補綴,②処置,③手術の各項目について,患者1人あたりの医療費の推移を評価するとともに,Fractional polynomialモデルを適合させ,2029年までの予測値を算出した.その結果,これまでの推移について,①と③は減少傾向,②は増加傾向を示し,今後も同様の傾向が続くことが示唆された. 2)国民の補綴治療等への需要として,歯科医療サービスの利用状況と保険外治療の選択との関連を評価した.方法は,インレー・クラウンまたはブリッジの治療経験のある20~60代の者2088人を対象に,定期的な歯科健診の受診有無を被説明変数とし,基本属性・口腔保健行動・保険外治療の状態を説明変数とし,ロジスティック回帰モデルを用いて分析した.その結果,定期的な歯科健診受診者は,非受診者に比べて,良好な口腔保健行動を実践し,保険外治療を選択した者が多いことが明らかになった. 本研究期間全体を通じて,歯科技工等の需要と供給について多面的に分析を行い,一部結果からは,将来的に歯科技工士減少による補綴装置製作への影響が表面化する可能性が示唆された.一方,本研究の限界として,歯科技工士の業務は補綴装置の種類や歯科技工所の規模等によって多種多様であり,こうしたデータは全国規模では存在しないため詳密な分析が困難であること,また,就業者数の推計では,CAD/CAMシステムなどの歯科医療技術の進展による業務効率化の影響は考慮していないことなどがある.今後こうした点を踏まえて,さらなる分析を計画している.
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