研究課題/領域番号 |
19K10438
|
研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
枝広 あや子 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (90433945)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 社会歯科学 / 高齢者 / 認知症 / 口腔保健 / 在宅訪問 |
研究実績の概要 |
認知機能の低下した地域在住高齢者において歯科医院に通院困難なもの、および来場型健診に参加しない者についての口腔衛生・口腔機能およびニーズの現状把握を行うには、専門職自らが出向いて適切な認知機能評価を含む訪問調査を行う必要がある。我々は本研究において、認知機能が低下し外出頻度が低下した高齢者に対する歯科専門職の訪問調査を行い、①潜在的な歯科治療ニーズを明らかにする、②口腔介入による認知機能や精神機能への影響を明らかにする、③支援策および情報共有ツールの開発を目的とする。 対象は、これまで高島平スタディに参加した地域高齢者のうち来場型健診会場に来場しない者、歯科疾患の自訴の表出がない者、極度に外出頻度の低下した者を対象と設定した。具体的には、高島平スタディにおいて研究参加に同意した訪問調査参加者で、すでに認知機能低下していることが確認された者94名を対象とした。2019年度では精神科医、保健師、心理士と共に認知機能検査や生活機能検査、主観的幸福感等のインタビュー調査を個別の自宅訪問により行った。それに引き続き本人の同意を得て訪問口腔調査を行った。訪問口腔調査では、摂食状況、排便状態、口腔衛生習慣に関するアンケート調査のほか、口腔機能検査および精緻な歯周病検査を含む口腔内診査を行った。訪問口腔調査の末尾では、それぞれの口腔状態に合わせた口腔健康管理指導(口腔清掃、義歯清掃、口腔機能向上を含む)を実施した。新型コロナウイルス感染拡大の影響により一時中断中には、保健師による電話訪を頻繁に行い、介入を継続している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象は2016年高島平スタディにおいて認知機能低下が確認され、継続した介入を行っている94名である。2019年度10月から2020年3月にかけて、本人宅に電話連絡して訪問予約をしたうえで、精神科医師、保健師、心理士と共に対象者の自宅に訪問し、認知機能検査、生活機能検査、主観的幸福感等のインタビュー調査を行った。6か月間で対象94名のうち、89名の認知機能検査を実施した。調査困難であった6名は、訪問を約束したが、当日になり約束を忘れていた、調査期間に入所した等の理由で認知機能検査に至らなかった。インタビュー調査を受け入れた89名に対し、訪問口腔調査について了承した対象者に2019年12月より訪問口腔調査を開始した。2020年3月までの間43名に訪問口腔調査を行った。訪問口腔調査では、摂食状況、排便状態、口腔衛生習慣に関するアンケート調査のほか、口腔機能検査および精緻な歯周病検査を含む口腔内診査を行った。訪問口腔調査の末尾では、それぞれの口腔状態に合わせた口腔健康管理指導(口腔清掃、義歯清掃、口腔機能向上を含む)を実施した。これら対象には主観的な咀嚼能力と客観的な咀嚼能力の乖離があるもの、生活意欲が低下しているもの、歯科受療が必要であるにもかかわらず受療に必要性を感じていないもの、あるいは経口摂取に困難を感じているにもかかわらず、援助希求につながらず放置しているものが含まれ、訪問口腔調査から実際に受療支援を行ったケースが数件あった。新型コロナウイルス感染拡大の影響により一時中断となったが、その間は、保健師による電話訪を頻繁に行い、介入を継続している。 高齢者の在宅生活を支援する他の職種;当該地域の2件の地域包括支援センター、医師会および在宅医、歯科医師会および在宅歯科医と協力関係を結んだうえ、ケース会議を通じ歯科ニーズについての情報共有を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究で明らかにする点は以下である。 ①可視化されていない歯科ニーズを明らかにする:既に調査したものでは、90%に口腔衛生指導が必要であった。そのなかには口腔清掃習慣が起床時のみにしかないもの、また義歯を取り外す習慣がない者も含まれ、歯科医院で口腔清掃指導の経験がないと回答したものが大多数であった。また主観的な咀嚼能力と客観的な咀嚼能力の乖離があるもの、生活意欲が低下しているもの、歯科受療が必要であるにもかかわらず受療に必要性を感じていないもの、あるいは口腔疾患による疼痛から経口摂取に困難を感じているにもかかわらず、援助希求につながらず放置しているものが含まれた。今後調査する対象者の調査を実施したのち数値的に明らかにする。 ②口腔介入による認知機能や精神機能への影響を明らかにする:歯科専門職による指導の介入によって生じた生活上の変化、支援とのつながりについては、受療支援を行ったものに対するインタビューを実施する。 上記①②については、新型コロナウイルス感染拡大の影響、感染予防的観点から計画の見直しを迫られており、研究期間内の介入計画を見直し、数量的検討だけでなく質的検討も含めていくこととする。 ③支援策および情報共有ツールの開発:地域包括支援センター職員、在宅医等とのケース会議を通じ、非歯科専門職でも歯科ニーズを聞きとり専門職に繋げることが可能になる情報共有ツールを開発し、実際の試用を通じてブラッシュアップする予定である。具体的には本研究対象者にフィードバックシートとして提供した口腔内の状況及び口腔保健指導の要点、また認知機能低下のある対象者本人が主観的に表現した徴候を、記述したうえで質的な検討を加え情報共有ツールに反映させていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、倫理申請および精神科医、保健師等と実施するインタビュー調査を中心にして行い、本研究による訪問口腔調査は12月からの本格的な開始であった。2020年度は調査に続き介入を予定していたため、調査及び介入の専門職人件費として使用する目的で次年度使用額を生じさせた。
|