研究課題
認知機能の低下した地域在住高齢者において歯科医院に通院困難なもの、および来場型健診に参加しない者についての口腔衛生・口腔機能およびニーズの現状把握を行うには、専門職自らが出向いて適切な認知機能評価を含む訪問調査を行う必要がある。我々は本研究において、認知機能が低下し外出頻度が低下した高齢者に対する歯科専門職の訪問調査を行い、①潜在的な歯科治療ニーズを明らかにする、②口腔介入による認知機能や精神機能への影響を明らかにする、③支援策および情報共有ツールの開発を目的とする。対象は、これまで高島平スタディに参加した地域高齢者のうち来場型健診会場に来場しない者、歯科疾患の自訴の表出がない者、極度に外出頻度の低下した者を対象と設定した。具体的には、高島平スタディにおいて研究参加に同意した訪問調査参加者で、すでに認知機能低下していることが確認された者94名を対象とした。2019年度では精神科医、保健師、心理士と共に認知機能検査や生活機能検査、主観的幸福感等のインタビュー調査を個別の自宅訪問により行った。それに引き続き本人の同意を得て訪問口腔調査を行った。訪問口腔調査では、摂食状況、排便状態、口腔衛生習慣に関するアンケート調査のほか、口腔機能検査および精緻な歯周病検査を含む口腔内診査を行った。訪問口腔調査の末尾では、それぞれの口腔状態に合わせた口腔健康管理指導(口腔清掃、義歯清掃、口腔機能向上を含む)を実施した。新型コロナウイルス感染拡大の影響により一時中断したが計75名に訪問口腔調査を実施した。論文報告を行った。
2: おおむね順調に進展している
対象は2016年高島平スタディにおいて認知機能低下が確認され、継続した介入を行っている94名である。2019年度10月から精神科医師、保健師、心理士と共に対象者の自宅に訪問し、認知機能検査、生活機能検査等のインタビュー調査を6か月間で89名の認知機能検査を実施した。インタビュー調査を受け入れた89名に対し、訪問口腔調査について了承した対象者に2019年12月より訪問口腔調査を開始した。2020年9月までの間75名に訪問口腔調査を行った。緊急事態宣言中に認知症の進行、入院や過度の不安などにより脱落したものが14名いた。訪問口腔調査では、摂食状況、排便状態、口腔衛生習慣に関するアンケート調査のほか、口腔機能検査および精緻な歯周病検査を含む口腔内診査を行った。訪問口腔調査の末尾では、それぞれの口腔状態に合わせた口腔健康管理指導(口腔清掃、義歯清掃、口腔機能向上を含む)を実施した。これら対象には主観的な咀嚼能力と客観的な咀嚼能力の乖離があるもの、生活意欲が低下しているもの、歯科受療が必要であるにもかかわらず受療に必要性を感じていないもの、あるいは経口摂取に困難を感じているにもかかわらず、援助希求につながらず放置しているものが含まれ、訪問口腔調査から実際に支援を行ったケースが数件あった。2019年度の成果は“Oral health as an opportunity to support isolated people withdementia: useful information during coronavirus disease 2019 pandemic”と題しPsychogeriatrics誌に掲載された。当該地域の2件の地域包括支援センター、医師会および在宅医、歯科医師会および在宅歯科医と協力関係を結んだうえ、ケース会議を通じ歯科ニーズについての情報共有を行っている。
本研究で明らかにする点は以下である。①可視化されていない歯科ニーズを明らかにする:既に調査したものでは、90%に口腔衛生指導が必要であった。そのなかには口腔清掃習慣が起床時のみにしかないもの、また義歯を取り外す習慣がない者も含まれ、歯科医院で口腔清掃指導の経験がないと回答したものが大多数であった。また主観的な咀嚼能力と客観的な咀嚼能力の乖離があるもの、生活意欲が低下しているもの、歯科受療ニーズを自覚できていないもの、あるいは口腔疾患による疼痛から経口摂取に困難を感じているにもかかわらず、援助希求につながらず放置しているものが含まれた。歯周炎症面積には高血圧や抗血栓療法を調整しても認知症重症度が関連していたことが明らかになり論文執筆を行う。②口腔介入による認知機能や精神機能への影響を明らかにする:歯科専門職による指導の介入によって生じた生活上の変化、支援とのつながりについては、受療支援を行ったものに対する歯科受療の困難さ・好影響をインタビューし質的検討する。上記①②については、新型コロナウイルス感染拡大の影響、感染予防的観点から計画の見直しを迫られており、研究期間内の介入計画を見直し、数量的検討だけでなく質的検討も含めていくこととする。③支援策および情報共有ツールの開発:地域包括支援センター職員、在宅医等とのケース会議を通じ、非歯科専門職でも歯科ニーズを聞きとり専門職に繋げることが可能になる情報共有ツールを開発し、実際の試用を通じてブラッシュアップする予定である。具体的には本研究対象者にフィードバックシートとして提供した口腔内の状況及び口腔保健指導の要点、また認知機能低下のある対象者本人が主観的に表現した徴候を、記述したうえで質的な検討を加え歯科受療情報共有ツールに反映させていく。
新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言および新型コロナウイルスの口腔飛沫による感染形態であることから高齢者にとって口腔の調査に対する恐怖心がつのったこと、二回目の調査実施は対象者への配慮から延期したため、次年度使用額が生じた。また大規模調査は感染対策の点から困難であった為。
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