研究課題/領域番号 |
19K10457
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研究機関 | 就実大学 |
研究代表者 |
小野 浩重 就実大学, 薬学部, 教授 (90368704)
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研究分担者 |
塩田 澄子 就実大学, 薬学部, 教授 (00368698)
加地 弘明 就実大学, 薬学部, 講師 (10368706)
通阪 栄一 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (40363543)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フッ化物イオン / S/Oサスペンション / 放出制御 / パッチ製剤 / ミュータンス菌 / 増殖抑制効果 |
研究実績の概要 |
・フッ化物含有パッチ製剤の調製及び放出特性の評価:0.1 mg/mlのフッ化ナトリウム水溶液5 ml、界面活性剤ショ糖エルカ酸エステル(ER-290)10 wt% 含有シクロヘキサン10 mlを25,000 rpm 、5 分間高速撹拌してW/Oエマルションを調製した。その後、2日間凍結乾燥した脂溶性集合体を大豆油10 mLに分散してS/Oサスペンションを調製した後、ゲル化を目的としたHSA (12-ヒドロキシステアリン酸)、粘性を目的としたHPC (ヒドロキシプロピルセルロース) を用いてパッチ製剤を調製した。人工唾液を用いてパッチ製剤からのフッ化物イオン濃度を測定した結果、高濃度(0.2~0.5 mg/mL)HSA製剤では低濃度(0.01~0.1 mg/mL)HSA 製剤に比べ、フッ化物イオン濃度のピークが遅延した。一方、ピーク時のフッ化物イオン濃度は、低濃度HSA製剤では1.6 ppmであるのに対し、高濃度HSA製剤では0.012 ppmとHSA添加濃度が高いほど放出制御を生じ、HSA 0.1~0.2mg/mLがフッ化物イオンの放出制御に適していることを確認した。 ・パッチ製剤を用いたミュータンス菌増殖抑制効果の検討:これまでパッチ製剤の組成成分に大豆油を用いたW/Oエマルションを用いたが、大豆油がSt.mutans(ミュータンス菌)の増殖に影響する可能性が示唆されたため、大豆油の他にオリーブオイル、ヤシ油を用いてミュータンス菌増殖に対する影響を検討した。その結果、大豆油では20μl、80μlともに増殖能の増強、オリーブオイルではコントロール群と同様の増殖がみられた。一方、ヤシ油では濃度依存的に増殖抑制がみられた。本結果より、ヤシ油に比べて大豆油やオリーブ油で組成比の高いリノール酸がミュータンス菌の増殖に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HSA濃度の異なる3群のフッ化物含浸口腔粘膜付着性パッチ製剤を調製後、ディスク法を用いてミュータンス菌に対する感受性試験を行った結果、HSA0.05g/mlの阻止円直径は約20 mm、HSA0.2g/mlの阻止円直径は約12 mm、HSA0.5g/mlの阻止円直径は約7 ㎜であった。本結果は、これまでの人工唾液でのフッ化物放出濃度の検討と同様、高濃度HSA製剤ではフッ化物イオンの放出制御により、ミュータンス菌増殖を抑制し難いことが判明した。 また、以前の研究でミュータンス菌増殖に大豆油が関与していることが示唆されたため、ミュータンス菌に対し大豆油、オリーブオイル、ヤシ油を用いて油性成分の検討を行った。その結果、大豆油では20μl、80μlともに増殖能の増強、オリーブオイルではコントロール群と同様の増殖がみられた。一方、ヤシ油を添加した群ではヤシ油20μl、80μlともに添加4時間後まで増殖を抑制し、その後の増殖抑制は添加量が高い80μl添加群で有意な増殖抑制効果を示した。この要因として、油の組成比の違いが考えられる。 大豆油は、主要組成脂肪酸で88.1%、オリーブオイルは主要組成の3つの脂肪酸で94%、ヤシ油は主要組成5脂肪酸で85.2%を占める。そのうち、多価不飽和脂肪酸の一種であるリノール酸は、大豆油の52.2%、オリーブ油の7%を占めるが、ヤシ油ではわずか1.7%であることから、ヤシ油に比べて大豆油やオリーブ油の組成の多いリノール酸がミュータンス菌の増殖能に関与していることが示唆された。今後はヤシ油を油相成分としたエマルションを調製し、これまでの大豆油と同等のフッ化物の放出特性を示すか検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.フッ化物至適濃度の検討 う蝕予防において、口腔内に0.05 ppm以上のフッ素イオン濃度が存在することが重要である。本パッチ製剤では口腔内に一定濃度のフッ化物が残存する可能性があるため、有効量と安全性を考慮したフッ化物濃度の検討が必要である。現在使用しているパッチ製剤には1,000 ppmのNaFが含まれているが、フッ化物イオン最高放出濃度は2 ppm以下であるため、生体に影響を与える濃度ではないと考える。しかしながら、細胞増殖を抑制するフッ化物イオンの最も低い濃度として0.5 ppmの報告があり、放出濃度の増加とともに毒性作用が増加する可能性がある。今年度の研究成果をもとに次年度は油相にヤシ油を用いたS/Oサスペンション含有本パッチ製剤を調製し、フッ化物イオンのピーク時間を口腔内挿入後3~4時間、フッ化物イオン濃度を0.05ppmに設定し、最小発育阻止濃度(MIC)測定により最適なフッ化物濃度を特定した後、ディスク法によりパッチ製剤のミュータンス菌抑制効果を評価する。 2.粘膜付着性高分子の選定及び付着面積の評価 本研究では、これまで粘膜付着性高分子として使用してきたHPCの他に、高い粘膜付着性が示され、健康食品や食品添加物にも使用されている天然高分子キトサンを使用し、ムチンシートやラット腸管粘膜を用いた粘膜付着時間と粘度を比較検討した上で、パッチ製剤の粘膜付着性高分子を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度(2019年度)の研究打ち合わせを目的とした旅費として100,000円を計上したが、パイロット試験以外の研究データ打ち合わせを一部通信にて実施したため、余剰金が発生した。2020年度は共同研究者との研究データ打ち合わせに加え、宿泊を伴う実験を予定しているため、余剰金を2020年度計上予算に追加したいと考えている。
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